9月18日(水)「宮本武蔵・般若坂の決闘」

宮本武蔵・般若坂の決闘」('62・東映京都))監督:内田吐夢 原作:吉川英治 脚本:鈴木尚之 撮影:坪井誠 音楽:伊福部昭 出演:中村錦之助/木村功/入江若葉/三國連太郎/丘さとみ/木暮実千代/浪花千栄子/山本麟一
中村錦之助主演によるシリーズ五部作の第二部で、宮本武蔵としての旅立ちから般若坂での浪人との戦いまでが描かれる。
沢庵和尚に導かれ白鷺城の暗黒蔵に三年間こもっていた武蔵は、城主から宮本武蔵と名乗るよう命じられ、白鷺城に別れを告げて剣の旅に出た。同行を願うお通との約束に反し、武蔵は一人で武者修行に旅立ち、吉岡道場で門人数名を破った。木賃宿で知り合い醍醐道で再会した城太郎から、吉岡道場の千人もの門下が自分を探していると書かれた又八からの書状を受け取った。宝蔵院の高弟の阿巌を打ち倒した武蔵は、やがて自分に恨みを抱く浪人や、宝蔵院の荒法師たちと相対することになるのだが…。<allcinema>

◎前作のエピロ−グで白鷺城の天守に幽閉されたたけぞうは、万巻の書を読み三年、遂にある境地に達する。“今日までの勇気は人間の本当の勇気とは云えない。もののふの強さとはそんなものではない。怖い物の恐ろしさを良く知り、命を惜しみ、労らなければならない”と。その暗黒蔵から沢庵の導きによって脱し、名も宮本武蔵と改めたたけぞうは城主から拝領の両刀を腰に“光明を抱いて人間の中へ”と諭す沢庵と別れ、“弧剣、そうだ、剣の天下、これに生きよう。これを魂とみて常に磨き、何処まで人間として己を高め得るか。頼むはただこの一腰、青春21、遅くはない”
このクサくも感動的な台詞は脚本の創作かと思ったが、確かめて見ると原作のモノであった。(蛇足)
お通への未練を振り切って修行の旅に出た武蔵は、二年後、京の吉岡憲法の道場に現れる。その変貌ぶりが凄まじい。蓬髪弊衣、離れ座敷に端然と座る武蔵は、身構える門人の目に己の体にたかるシラミを潰して差し出して見せる。二年という歳月、どれほどの辛苦と闘いを経てきたかを一瞬にして観る者に悟らせるシ−ンであった。宝蔵院での勝負と般若坂での決闘は、この一瞬に比べれば付けたりに過ぎないと言えるだろう。呑気呆亭