9月17日(火)「宮本武蔵」

宮本武蔵」('61・東映京都)監督:内田吐夢 原作:吉川英治 脚本:成沢昌成/鈴木尚之 撮影:坪井誠 音楽:伊福部昭 出演:中村錦之助/木村功/入江若葉/三國連太郎/丘さとみ/木暮実千代/浪花千栄子
吉川英治の同名長編小説を、成沢昌茂と鈴木尚也が脚色し、内田吐夢が監督した大型時代劇。中村錦之助主演によるシリーズ五部作の第一部で、関ヶ原合戦の敗走から白鷺城天守閣幽閉までが描かれる。
 慶長五年九月、関ヶ原の合戦で敗れた西軍に加わっていた武蔵(たけぞう)と又八は、お甲とその娘の朱実に救われる。二人は戦場で死んだ侍から金品を奪う盗賊だった。お甲に誘惑された又八は母娘とともに姿を消してしまう。豊臣方の残党として手配された武蔵は、又八の許婚のお通と七宝寺の沢庵和尚の手により生け捕りにされた。やがて沢庵は武蔵を姫路の白鷺城に連れて行き、天守閣の開かずの間に幽閉して去って行った。<allcinema>

◎戦で脚に傷を負った又八を救ったお甲(木暮)が、又八の傷口に口を着けて毒血を吸い出すシ−ンが凄まじい。口に焼酎を含みながら又八の太股から一心不乱にお甲は血を吸い出すうちに、この若い男の体に惹かれて行くのだが、これがもの凄いエロチシズムを醸し出して、前半一番の見所であった。その若い男を自分のモノにするためにお甲はたけぞうを見捨て娘の朱美を連れて遁走する。独りになったたけぞうは落ち武者詮議の関所を破って故郷に戻る。たった一人の姉に会うためと又八の生存をその母(浪花)に告げるためだった。落ち武者詮議の侍たちと村人に追われるたけぞうは破れかぶれになって暴れ回る。その姿はまるで一匹のケダモノのようだった。そのケダモノが沢庵に捕まって寺の境内の千年杉にに吊される。その巨大な千年杉はスタッフが作った杉だったのだが、監督の内田吐夢は、頂上から見下ろした絵が欲しかったので、高さの足りない最初の杉を作り直させたのだという。その千年杉に吊された錦之助は実はとんでもない高所恐怖症だったらしく、あの喚き散らす演技は沢庵に向かってというよりかは内田吐夢に向かってのものだったように思われる。そして、ここに凄い月の出の映像が現れる。千年杉を挟んで左に力尽きて死んだようにぶら下がるたけぞうの姿、その姿を差し照らす巨大な上弦の月を右に配した映像は、このケダモノのような若者の未来を暗示するかのような奇跡的な絵であった。呑気呆亭