9月6日(金)「斬る」

「斬る」('61・大映京都)監督:三隅研次 原作:柴田錬三郎 脚本:新藤兼人 撮影:本多省三 出演:市川雷蔵/藤村志保/渚まゆみ/万里昌代/柳永二郎/天知茂
柴田錬三郎の同名小説を新藤兼人が脚色し三隅研次が監督。三隅=市川コンビの「剣」三部作の第一作で、この後「剣」「剣鬼」が制作された。
出生に秘密を抱える小諸藩士の高倉信吾は、藩主の求めに応じて水戸の庄司嘉兵衛と立ち会い“三絃の構え”で嘉兵衛を倒した。数日後、養父の信右衛門と義妹の芳尾が池辺親子に斬殺されたことを知り、信吾は二人を国境に追い詰め討ち果たした。江戸に出た信吾は千葉道場主栄次郎と剣を交える。栄次郎は信吾の非凡さに気づき、幕府大目付の松平大炊頭に彼を推挙した。三年後、信吾は大炊頭とともに取り締まりのため水戸へ向かうのだったが…。<allcinema>

◎プロロ−グの藤村志保天知茂のエピソ−ドがいかにも三隅研次らしく綺譚風に物語られて見る者を一気に引き込んで行く。その事件にこの物語の発端があり、主人公高倉信吾の悲劇の因がある。何も知らずに成人した信吾は家族にも藩主にも愛される爽やかな青年に成長していた。その信吾が藩主からも許された3年の旅を経て帰還し、“何も得るモノはなかったよ”と妹と父を韜晦しながらも藩主の求めには逆らえず、「三絃の構え」なる異様な必殺の構えを披露する。これは相打ち覚悟の必殺の剣であって、未だ出生の秘密を知らぬ信吾がまるでその母の果断さを思わせる構えを自得したのはやはり血というものだったのだろう。彼の悲劇はここに端を発するのである。呑気呆亭