9月3日(火)「世紀は笑ふ」

「世紀は笑ふ」('41・日活)監督:マキノ正博 原作・脚本:小国英雄 撮影:横田達之 出演:杉狂児/広沢虎造/轟夕起子/芝田新
浪花節の名調子で一世を風靡した広沢虎造の、実人生を重ね合わせたような立身出世物語。売れない浪花節語りの虎造が、杉狂児扮する友人の影の尽力によって名声を得る。しかし、驕りの心を持った虎造は友情のありがたさを忘れていた・・・。マキノ正博の人情噺の呼吸を心得た演出もみごと。現存フイルムは、後半部分のみだが、作品の味わいは伝わる。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎テレビで放映されたモノを視聴。全篇を見ることが出来た。マキノ雅弘作品への虎造の出演は「次郎長三国志」('52・東宝)が最初だと思っていたが、この映画は'41年の製作であるから10年前にもうマキノは虎造の才を買っていたのだなと分かる。銭湯の風呂桶に浸かって好い気持ちで浪花節を呻っている夜泣き蕎麦屋の虎造が、本物の浪花節語りを喰ってしまうプロロ−グが面白い。その声を生かすために夜泣き蕎麦屋の相棒の杉狂児が“お前と一緒に居たんじゃ俺の前途が開けねえ”なんてことを言って虎造と袂を分かつ。虎造は段々出世して大看板になり、一方の狂児も演芸団の裏方からひょんなことで表舞台に立つようになる。その狂児のもとに、以前二人が世話になった町の興行主から虎造の出演を依頼する使者が来る。狂児は意を決してかつてのいざこざから感情を害しているであろう虎造の元に向かうのだった・・・。
何よりもの見もの聞き物は広沢虎造という人の高座姿とその素晴らしく伸びのある浪花節であった。講釈と浪花節の違いも描写されていたりして、物語に破綻もなく安心して見ることが出来た。呑気呆亭