8月31日(土)「探偵物語」

探偵物語=THE DETECTIVE STORY」('52・米)監督:ウイリアム・ワイラ− 原作:シドニ−・キングスレ− 脚本:フィリップ・ヨ−ダン/ロバ−ト・ワイラ− 撮影:リ−・ガ−ムス 出演:カ−ク・ダグラス/クレイグ・ヒル/エレノア・パ−カ−/リ−・グラント/キャシ−・オドネル/ウイリアム・ベンディックス/バ−ト・フリ−ド/ジョ−ジ・マクレディ/ジョセフ・ワイズマン
★ニューヨーク21分署の刑事たちの一日を描いたシドニー・キングスレーの舞台劇の映画化。違法な堕胎を行う悪徳医師の摘発に躍起になる鬼刑事とその妻の秘められた過去、会社の金を横領した青年、初犯の万引女性(リー・グラント好演!)、二人組の強盗等の話に刑事同士の葛藤を織り混ぜた人間ドラマの秀作。ほとんどの舞台を刑事部屋だけに限定し、巧みな脚本とW・ワイラーの緊張感ある演出ですこぶる上質な会話劇を作り上げている。<allcinema>

★日本公開は1953年ですが、本国での公開は1951年初夏になります。当時のハリウッドとワイラーの周辺がどういう状況だったか、ちょっと整理してみましょう。

1951年のハリウッドというと、同年3月に始まるHUACによる「赤狩り」によりにその足元を大きく揺るがせていた時期になります。47年に行われた最初の「赤狩り」による傷がいえないまま、身内同士の血で血を洗う抗争が激化、ある者は命を絶ち、ある者は友と袂を分かち、そしてある者は一生消えぬ十字架を背負うことになります。ここから黄金の都ハリウッドは長きにわたる暗黒の時代を迎えることになるのです。

そしてこの『探偵物語』の作られた周辺をさらに見てみると、まずワイラーがこの映画の前に撮った前作『女相続人』(48年)やキャプラの『恋は青空の下』(50年)の興行的な失敗により、彼らに対するパラマウントの締め付けがかなり強くなっていた時期であり、あまり製作費のかかる大作は作れなかったことが分かります。この映画が警察署というほぼ一つの舞台に限定されているのはそういう理由があったようです。

こういった背景を頭において本作を見てみると、まず見えてくるのがワイラーのクリエイターとしてのプライドです。職人としての意地とも行ってよいでしょう。全編厳しく進んで行く物語の中で、並みの監督には絶対に出来ない統一された意思というものがそこには存在しています。舞台劇を扱いながらもそれを突き抜け、見事に「映画」となっているのも、ワイラーの手腕と彼の期待に応えたカーク・ダグラスの存在感あってのものでしょう。特にダグラスの奥歯をギリギリと噛み締め、硬そうな拳をグッと握り締めるポーズは実に様になっています。シャツの第一ボタンを常に締めているところも主人公のキャラクターを示し象徴的です(衣装担当はイデス・ヘッド)。また、ワイラー映画の特徴である「人間を見つめる冷めた視線」はここでも健在で、会社のお金を横領し逮捕された青年と幼なじみがお互いの存在を確かめ合うシーンで、オーバーアクト気味のジョゼフ・ワイズマンがじっとみつめているとこなんかうまいもんです。
〈allcinema=はこまる〉

◎前回見た時に、カ−ク・ダグラス演ずるマクラウド刑事の一寸した動作が気になったことを覚えていたのだが、それが重要な伏線であったことを今回見直してみて気が付いた。その動作とは、マクラウド刑事は銃のホルスタ−を右腰の前に着けている。その彼はジョゼフ・ワイズマン演ずる狂犬のような強盗犯に相対する時は必ずホルスタ−から銃を抜いてポケットにしまうのである。それが一度ではなく二度もその動作をするので、その動作が彼マクラウド刑事のプロフェッショナル性を現わすだけではなく、ラストの惨劇への重要な伏線になっていたのだと気が付いたのだった。そのことをあらかじめ知っている観客の目は、狂犬・ワイズマンの目に同調して、部屋の向こうで無防備に後ろ向きになっている警官の腰に着けた銃にギラッと焦点を合わせるのである。呑気呆亭