8月20日(火)「浪人街第一話二話」

「浪人街第一話二話」('28〜29・マキノ映画社)監督:マキノ正博 脚本:山上伊太郎 撮影:三木稔 出演:南光明/根岸東一郎/河津清三郎/谷崎十郎/大林梅子/岡島艶子
無声映画末期を飾る不朽の時代劇。'28年マキノ映画は所属のスタ−が大量脱退するという大ピンチを迎えていた。苦肉の策としてスタ−の出ない群衆劇を作ることになり、若きマキノ正博(20歳)が気鋭のシナリオ作家山上伊太郎(23歳)の協力を得て第一話「美しき獲物」を作り上げた。希望のない浪人たちがごろごろ寝ころんで日々を過ごしており、悪い旗本に立ち向かう時だけ団結するという、エゴイズムとニヒリズムに満ちた内容のユニ−クさに加えて、奔放に移動しパンするカメラ(撮影はこれも気鋭の三木稔)の驚くべき尖鋭さ、そして何よりも全篇にみなぎる若々しさによって一躍注目されることとなり、当時の青年層の心情とマッチした本作はキネマ旬報ベストワンも獲得してしまった。続いて第二話「楽屋風呂」、第三話「憑かれた人々」が作られ、マキノの長いキャリアの中で第一期黄金時代を築き上げた。ただし現存するフィルムは第一話・第二話の編集短縮版のみなのが残念。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎第一話は8分、第二話は72分、残っていただけでも幸いとしなければなるまい。第一話はラストの浪人たちと旗本たちの大乱闘だけが残っている。マキノによれば、この作品のトップのタイトルは“強い奴、弱い奴、面白い奴、馬鹿な奴、色んな奴が集まって・・・浪人街の白壁にいろはにほへとと書きました”とあったのだそうだ。このタイトルに象徴されるアナ−キ−な斬新さが全篇を覆って、このラストの大立ち回りとなり、この年のキネマ旬報一位に結実したのだろう。第二話の「楽屋風呂」は撮影が難航して正月物に間に合わなくなり尻切れトンボのまま公開されてしまったのだとマキノは語っている。なるほど浪人街の浪人たちの明日をも知れぬ生活ぶりは克明に描かれているが、訳の分からぬラストになってしまった。しかし映像としては充分に楽しめる両作品であった。呑気呆亭