8月4日(日)「按摩と女」於:京橋フイルムセンタ−「生誕110年清水宏特集」

「按摩と女」('38・松竹)監督・脚本:清水宏 撮影:斎藤正夫 音楽:伊藤宣二 美術:江坂実 録音:土橋武夫/森武憲 出演:高峰三枝子/徳大寺伸/日守新一/佐分利信/爆弾小僧/坂本武
★世にもユニ−クな清水宏の映画の中でも、おそらく最もユニ−クな映画といえるもの。
新緑の美しい温泉場にやってきた按摩コンビの徳市・福市。宿で東京から来た女に呼ばれた徳市は、女がそわそわして何かを怖がっている様子を、カンで見抜いた。いわくありげな女を気にするうちに、徳市は女に淡い恋心を抱くようになってしまった。ところが同じ宿に泊まっていた男の子連れの若い男が女と親しくなり、徳市はやきもきした。そんなある日、宿に盗難事件がおこり、別の宿でも似たような事件が発生した。徳市は、東京の女が犯人だと思い込み、一刻もはやくと、女を連れて逃亡をはかる。女は徳市が自分を犯人だと思っていることを知ると、始めて事情を打ち明けるのだった。(映画読本・清水宏)

◎東京から来た女(高峰)の着物姿が美しく、メクラの徳市にもそのいわくありげな美しさが見なくても感じられるというギャグには、際どくも笑わされる。今なら絶対に作れない映画だろう。この徳市と福市のコンビにはモデルでもあったのだろうか絶妙で、眼明きを追い越すのが趣味の強気の徳市(徳大寺)と、何かというと後年の座頭市のように杖を振り回す気弱な福市(日守)のギャグが度々繰り返されて、温泉町を賑わす。そこに宿に起こる盗難事件と、東京の女と子連れで職業不詳の男と徳市の淡い三角関係の交情がからんで、温泉町を流れる川の流れのようなゆったりとしたサスペンスが醸し出される。男が去り盗難事件も解決し、女も馬車に乗って去る。その馬車を見えない眼を見開いて追う徳市・・・、何故だろう、“生きて行く”ということに対する身震いするような想いが込み上げて来たのだった。呑気呆亭