7月27日(土)「エル」

「エル=EL」('52・墨)監督・脚本:ルイス・ブニュエル 脚本:ルイス・アルコリサ 撮影:メルセデス・ピント/ガブリエル・フィゲロア 出演:アルトゥ−ロ・デ・コルドバ/デリス・ガルセス/アウロ−ラ・ワルケル
★メキシコ時代のブニュエル作品としては、後期の作品に共通するテーマを最も持った危険な映画。敬虔なカトリック信者で品行方正、四十過ぎても未だ童貞というフランシスコ(デ・コルドヴァ)は教会で会った美しい脚の持ち主グロリアにひと目惚れし、婚約者のいるのも構わず彼女と結婚した。しかし、彼は異常な嫉妬心の持ち主で、彼女に少しでも関わる全ての男を疑いの目で見、寝ている彼女をロープや鋏で脅かすばかりでなく、ついには塔からつき落とそうとするのだが。反カトリシズム、盲愛、自己抑圧とその反動の加虐、フェチシズム…後のブニュエル的要素のストレート・フラッシュが見られる本作は、精神医学の権威ジャック・ラカンが講義にも使用したといういわくつきの作品だが、主人公のあまりのファナティックさは、やはりメキシコ映画である由縁だろう。<allcinema>

◎自縄自縛という言葉がこれほど似合う映画はない。家門の名誉と財産とカトリック社会での地位を保つために凝り固まった男が、生涯初めての恋をする。男は女を財産や地位と同じモノとみなしてそれを自分のものとするために手段を選ばない。男はそれが人の言う恋であり愛であると信ずるのだが、実はそれが独りよがりの錯覚であることに決して思い至らない。というより、彼にはその認識に至る能力が欠けているのである。彼の棲む館はそんな彼を象徴するかのように豪壮でありながら醜悪な様相を呈する。執念の対象とした土地と他者(女)への想いが破綻して行くと共に男が秘めていた狂気が表面に現れて来て、ラストのカトリック教会でのおどろどろしい悪夢のシ−ンで一気に吹き上がる。この狂気は我々日本人にとって、横溝正史によって描かれた、山村という閉鎖社会でしばしば起こる連続殺人事件としてなじみのものでもある。呑気呆亭