7月11日(木)「東京の英雄」於:京橋フイルムセンタ−「生誕110年清水宏特集」

「東京の英雄」('35・松竹)監督:清水宏 原作:源尊彦 脚本:荒田正男 撮影:野村昊 録音:土橋晴夫/橋本要 音楽:早乙女光 出演:岩田祐吉/吉川満子/藤井貢=突貫小僧/桑野通子=市村美津子/三井秀雄=横山準
★現存する清水の数少ないサウンド版の一つ。藤井貢主演で、この時期の清水には珍しく作風の「暗さ」を批評家に感じさせた。
寛一の父はいつも帰りが遅い。父は鉱山資金募集のインチキ事務所を作った虚業家だった。寛一は母に早く死なれ寂しかったが、父が再婚し義理の妹と弟ができ嬉しかった。が、商売が摘発され父は失踪。義理の母春子(吉川)が女手一つで子供たちを育てた。十年後、妹加世子(桑野)は婚約したが、ある理由で婚約を破棄され家を出た。また弟秀雄(三井)も母に抗議して家を出てしまう。実は母春子はクラブを経営して子供たちを養っていたのだ。寛一(藤井)は母を慰め、卒業後は新聞記者となった。ある日、妹がダンスホ−ルの女に、弟が銀座の与太者になっていると知る。弟は与太者の喧嘩で刺され、寛一は瀕死の弟から父がまたニセの満蒙金鉱会社を始めたと聞く。寛一は記者の正義感から父の不正を新聞に暴き、母に報告して涙ぐんだ。(『映画読本・清水宏』)

◎京橋フイルムセンタ−の「清水宏特集」での上映を観る。むろん桑野通子目当てである。以前、池袋の人生座で「有りがたうさん」を見て、桑野通子なる女優さんを知り、その発するオ−ラにイカレて、以来追っかけをやっている。今回の特集でも清水=桑野コンビの作品は見逃さずに追い掛けようと思っている。さて、この映画、女手一つで三人の子を育てた母親の職業がダンスホ−ルの経営であったということが、嫁に行った加世子(桑野)の離縁の原因になったということが、いかにも昭和10年の作品だなと思わせる。当の桑野自身が人気ダンサ−からスカウトされて女優になったという経歴もあって、離縁を契機に家出してダンサ−になるというのは、いかにもご都合主義の筋立てだが、それもこれも桑野のダンサ−姿を見せたいがための企画だったのだろう。清水はやたらに衣装に凝って、お気に入りだったという藤井貢には就職祝いに注文服をプレゼントしたり、家出した次男の三井秀雄(弘次)には与太者らしい粋なハットとマフラ−姿をさせ、まだ下膨れの可愛い桑野通子には和服・結婚衣装・ダンサ−のドレス・外出用のコ−ト姿と、これでもかというばかりに着せまくる。清水の趣味の勝った映画でありました。「東京の英雄」って、なんだったの?呑気呆亭