6月22日(土)「貸間あり」

「貸間あり」('59・宝塚映画)監督・脚本:川島雄三 原作:井伏鱒二 脚本:藤本義一 撮影:岡崎宏三 照明:下村一夫 美術:小島基司 音楽:真鍋理一郎 出演:フランキー堺/淡島千景/桂小金治/浪花千栄子/小沢昭一/乙羽信子/清川虹子/藤木悠
★喜劇映画に独特の作風を築いた川島雄三監督作品。井伏鱒二の同名小説を原作とし、大阪のとあるアパ−ト屋敷に住む風変わりな人間たちのエネルギッシュな群像を描く。川島の代表作「幕末太陽伝」の主役で名を上げたフランキー堺の怪演が見もの。

◎作家藤本義一氏が川島雄三との出会いとこの作品の脚本作成に関わった日々を記した「生きいそぎの記」(『さよならだけが人生だ』今村昌平編 映画監督川島雄三の生涯)を読むと、【“さあ、今日からシナリオの構成に入ろう”と宣言があってから、二人がとりかかったのは、所謂、脚本構成の第一段階である箱書きではなく、登場人物の性格設定でもなく、一軒の家の設計であった。】とあり、その設計図の製作に10日も費やし、初めの構想では安普請のアパ−トだったものが次第に趣を変えて肥大し、遂にはラビリンスめいたアパ−ト屋敷になってしまったのだという。そのラビリンスのあちこちに川島は“この部屋には、腰から尻の線の不潔な女を一人住いさす。抜き襟で、後から見ると溜息の出るような猥褻な女がいいのでげす”などと言いながら、これでもかというくらいに奇っ怪な人物たちを配置していったらしい。
久し振りに見直してみて、この一筋縄では括れない映画を本当に知るためには、それこそ10日もかけて川島と藤本が作ったアパ−ト屋敷の設計図を再現し、画面の細部にちりばめられた仕掛け(壁に貼られた紙の文字など)の数々をじっくり検証してみなければならないだろうと思ったことだった。主役はまさにこのアパ−ト屋敷なのである。呑気呆亭