6月21日(金)「若き日の次郎長・東海の顔役」

「若き日の次郎長・東海の顔役」('60・東映)監督・脚本:マキノ雅弘 脚本:沢島忠/小野竜之助 撮影:坪井誠 美術:鈴木孝俊 音楽:鈴木静一 出演:中村錦之助/丘さとみ/平幹二郎/扇町恵子/大川恵子/大河内伝次郎/月形龍之介/東千代之介/田中春男/山形勲
★「神田祭り 喧嘩笠」のマキノ雅弘と「森の石松鬼より恐い」の鷹沢和善(沢島忠)と本作がデビューとなる小野竜之助によるオリジナル脚本をマキノが監督した任侠もの。「森の石松鬼より恐い」で石松を演じた中村錦之助が本作では清水次郎長を演じ人気を博した。「若き日の次郎長」シリーズの第一弾。
米飢饉にあえぐ清水港で流れ込んできた難民に“米を売るな”とのお達しが出て、米問屋坂田屋の養子である長五郎は、米を売ることもできず博奕にふけっていた。坂田屋で米を強請り取ろうとした浪人の嘉平次が、長五郎に痛めつけられた上に「鼠侍」と罵られ、お情けで米を与えられ、一人娘を遺し割腹自殺を図る事件が発生。それを悔やんだ長五郎は無宿者たちに米を売ることにするが、役人に捕らえられてしまう。父の命により紀州向けの船に乗った長五郎は、米どころの尾張を目指すのだが、米はすべてやくざが取り仕切っており、手に入れることができなかった。<allcinema>

中村錦之助という役者の一風変わった革新的な個性とマキノ節が心地良く味わえる一篇。米屋の長五郎が次郎長へと変身して行く課程がテンポ良く描かれる。彼の周りに後の次郎長一家の中核を成す連中が、様々な事件をきっかけにして長五郎という義侠心に富む漢(オトコ)に惚れて集まって来る話の面白さは、見事な脚本の手柄である。田中春男は法印大五郎は“他人には渡せないぜ!”とばかりに、一連のマキノの「次郎長もの」に続いて、ここでもむさ苦しい乞食坊主姿で登場する。総天然色の映像もけばけばしくなくリアルで、セットもよく出来ている。マキノ雅弘という監督の力量は野球で言えば三割バッタ−、チャンスには必ず仕事をして失望させない。いつもながら大したモノである。呑気呆亭