6月20日(木)「浮草」

「浮草」('59・大映)監督・脚本:小津安二郎 脚本:野田高梧 撮影:宮川一夫 音楽:斎藤高順 出演:中村鴈治郎/京マチ子/若尾文子/川口浩/杉村春子
★ほとんどの作品を松竹で撮った小津安二郎監督が大映で撮った唯一の作品。溝口健二と“いつか大映で1本撮る”と約束していたという。撮影もずっと一緒に仕事をしてきた厚田雄春ではなく、溝口作品には欠かせないカメラマン・宮川一夫を起用。戦前の'34年に同監督が撮った「浮草物語」のリメイクである。
どさ回りの芝居の座長が昔の女のいる田舎町に巡業に。その女には座長が生ませた子供がいるが、その子は座長をおじさんだと思っている。しかし、座長の女である女優が昔の女に嫉妬、娘分の女優に座長の息子を誘惑させる・・・。京マチ子の情念むきだしの演技も小津世界にうまく溶け込んで印象的。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎のっけから遠景に白い灯台を配し近景に同じ形の黒い一升瓶を併置するという、いかにも小津さんらしい書き出しから始まったので、例によって低アングルの小津ワ−ルドに付き合わされるのかなと覚悟を決めたのだったが、おやおやこれは一寸違うぞ思い始めた。床屋に旅芝居のポスタ−を貼りに来た先乗りの男と床屋の主人と客との会話から、船で島に向かってくる一座の描写、漁師町をチンドンで囃して回る女芸人たちと後からついて歩く子供たち、映像の繋ぎに少しの無理も無駄もなく、カラ−の色彩の落ち着きと鮮やかさが心地良く目から胸に入ってくる。すべての色彩の色調が何ともいえず心地良いのだが、中でも黒、墨色に濃いモスグリ−ンの影を含んでいて、モノクロの黒とは明らかに違う深い色彩で撮影されている。気が付くとドラマの進行そっちのけで、その流麗な映像の流れに浸って陶然としている自分があった。総天然色の映画でこれほどの深みのある映像を少しの破綻もなく全篇を通して見せてくれた作品は、これまで見た記憶がないと言いたくなるほどの映画であった。こんな古今に希な傑作を創り上げたスタッフに敬意を表するためにクレジットされている全員の名を以下に記す。慌てて付け加えるが、もちろん、鴈治郎さん以下の俳優さんたちも皆見事でした。呑気呆亭

製作:永田雅一 企画:松山英夫 脚本:小津安二郎/野田高梧 撮影:宮川一夫 美術:下川原友雄 音楽:斎藤高順 録音:須田武雄 照明:伊藤幸夫 色彩技術:田中省三 装置:原島徳次郎 装飾:岩見岩男 製作主任:松本賢夫 編集:中村東陽 助監督:中村信也 メ−クアップ:牧野隆 舞踊振付:花柳寿恵幸 舞台指導:上田吉二郎 現像:東京現像所(アグファカラ−)