6月19日(水)「紅の翼」

紅の翼」('58・日活)監督・脚本:中平康 原作:菊村到 脚本:松尾昭典 撮影:山崎善弘 照明:藤林甲 音楽:佐藤勝 出演:石原裕次郎/中原早苗/二谷英明/西村晃/芦川いづみ/滝沢修/小沢昭一/清水まゆみ
★この作品で出演24作を数え、押しも押されもしない大スタ−になった石原裕次郎が主演した航空アクション。劇中の6割以上が空の上、しかも狭いセスナ機の中という設定にもかかわらず、少しも飽きさせることなくドラマが進む。二谷英明演ずる冷血な殺人犯に銃を突きつけられながらも、持ち前の明るさと度胸で危機を切り抜ける熱血漢の主人公を裕次郎が好演している。民間航空のパイロット・石田に、八丈島の子供が破傷風にかかり至急血清を送れという知らせが来た。セスナ機には一見紳士風の男(二谷)と女性記者(中原)が同乗、途中で男が殺人犯と分かって・・・(中略)。少年が生きるか死ぬかというタイムリミットをうまく生かし、その後多くの亜流の作品を生んだ航空サスペンスの傑作。
(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎監督・脚本:中平康、撮影:山崎善弘、照明:藤林甲とくれば、当然見応えのある傑作を期待する。確かに映画としてはサスペンスもあって面白いのだが、さて・・・、と思う。裕次郎主演の映画で言えば、「俺は待ってるぜ」「錆びたナイフ」「赤い波止場」など、もう一度見直してみたいと思うシ−ンがすぐに思い浮かぶ。「俺は」の裕次郎北原三枝の出会いのシ−ン、「錆びた」の砂山に刺さって鈍く光を放つジャックナイフ、「赤い」の北原三枝の頬に映る波のたゆたい、等々、思い出すだけで胸に迫るモノがある。不思議なことにそうした作品の大部分がモノクロ映画であるのは何故なのだろう?それは例えば「麦秋」の原節子の横座りになったスカ−トの美しいドレ−プであり、「用心棒」の三船三十郎の肩揺すり上げて歩く後ろ姿である。翻って、この航空サスペンスの傑作と言われる映画の何処に、そうした想いをもって思い出したくなるシ−ンがあっただろうか。決して悪い出来の映画ではないのだが、見終えて面白かったというだけのことで、残念ながら残るモノがない。思うに、総天然色の映像というものは情報量が多過ぎるために我々の脳にインパクトとして刷り込まれ難いということなのではないだろうか?呑気呆亭