6月6日(木)「母のおもかげ」

「母のおもかげ」('59・東宝)監督:清水宏 脚本:外山凡平 撮影:石田博 照明:泉正蔵 音楽:古関裕而 美術:仲美喜雄 出演:淡島千景/根上淳/毛利充宏/安本幸代/見明凡太郎/村田千栄子/南左斗子/清川玉枝/入江洋佑
水上バスの運転手を父にもつ瀬川道夫は、母が死んでから父との二人暮しだが、可愛がっている伝書バトのデデもいるし、別に淋しいとも思わなかった。そのうち、道夫に新しいお母さんが出来ることになった。新しい母はエミ子という妹をつれてやってきた。家の中は急に賑やかになったし、母も道夫にやさしくしてくれたが、道夫は何だか変な気持だった。母のおくりもので、今は形見になってしまったハトのデデを見ると、胸が何だか痛いような気持ちになるのをどうしようもなかった。ある日、道夫が学校から帰ると、ハトのデデが巣箱の中からいなくなっていた。大切なデデを見つけるために、道夫は夢中で家を飛び出した。その晩、行方の解らなくなった道夫を探して、父や母、豆腐屋のおじさんたちは大騒ぎした。さいわいに道夫は警察の手によって無事に保護されていることが解った。道夫を迎えに、父は一人で出かけた。家への夜道で、父と二人だけで久しぶりに歩くのを道夫はよろこんだ。父と子は星空の下で話しながら歩いた。「お母ちゃんがこないほうがよかったと思っているんじゃないのか」という父の問に今は道夫は、「そんなこと思ってないよ」と、はっきり答えるのだった。(goo映画)

◎こうした映画を作る人々にはまったく困ってしまう。全篇、何処をとっても泣けて・なけて・ナケテ、見終えて洗面所で洗った顔を上げると、鏡に目の縁を腫らした顔が映っていて情けないったらありゃあしない。こんなのは反則である。道夫を演じる毛利君は、「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」のイングマル君を演じたアントン少年に匹敵する奇跡的な演技を披露する。中でも秀逸なのは、新しい母に中々心を開けない道夫が、誰も居ない家で衣紋掛けに吊された母の洋服を相手に繰り広げる一人芝居だ。この時だけは普段の羞恥心を忘れて思い切り母の洋服に甘えかける道夫の仕草は、先年アカデミー賞を受賞した「ア−テイスト」でのベビ−が主人公のジョ−ジのス−ツを使ってのパントマイムの演技を先取りするモノであった。道夫の妹役を演じる(?)幸代ちゃんもうるさいのに可愛くて、清水宏という人は子どもを使ってこうした困った映画を作る達人なのである。急いで言わなければならないが、この二人の子を囲む大人たちそれぞれの演技も、実に自然で好ましいものであった。呑気呆亭