6月4日(火)「荷車の歌」

「荷車の歌」('59・大映)監督:山本薩夫 原作:山城巴 脚本:依田義賢 撮影:前田実 音楽:林光 出演:望月優子/三國連太郎/左幸子/岸輝子/左民子(時枝)/西村晃/水戸光子/利根はる恵/小沢栄太郎/浦辺粂子
★全国に広がる農業協同組合の婦人部が手をつなぎ、ひとり10円のカンパで3200万円を集め製作された山本薩夫監督の力作。広島県の山村の貧農の娘として生まれた主人公が結婚し姑にいじめられ、夫に裏切られながらも苦労に耐えて生き抜いていく、その一生を描く。こういう役をやらせたら他の追随を許さない望月優子の力演が印象に残る。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎地味な映画だが名作である。画面の隅々に製作者の意図と意思が感じられるのは、女たちひとり10円のカンパを一円も無駄にすまいとする気持ちをスタッフもキャストも共有していたからだろう。望月も三國も熱演だが、この映画を単なる「女の一生」としなかったのは、子ども時代のオト代を演じた左時枝のぶっ飛んだキャラクターに依るところが大きい。セキ(望月)と茂市(三國)の最初の子どもであるトモ代は、幼児の頃の保育が十分でなかったために3歳になるまで歩けなかったのだが、3歳になって突然歩き出す。そこから時間が急展開してオバアをちっとも恐れぬお転婆娘に成長したトモ代が出現して、ドラマの雰囲気をガラリと変えてしまうのである。下手すれば姑と嫁のいがみ合いという湿っぽい物語に陥りかねない所を、彼女の陽性が媒体となって姑と嫁の関係から湿り気を去らせて一種風通しの良いバトルに変えた。そのトモ代の成長した役を姉の左幸子が演じて、家族の中でのトモ代の役割を受け継ぐのだが、役柄の面白さの表現という点では妹に軍配が上がる。後半の妻妾同居する物語の部分では、三國の妾になる浦辺粂子のヌエ的な存在感はまさにこの人あってこその気味悪さであった。三國の老けは頂けなかったが、ともあれ映像の深みのある美しさは絶賛に値する。呑気呆亭