5月30日(木)「アスファルト・ジャングル」

アスファルト・ジャングル」('50・米)監督・脚本:ジョン・ヒュ−ストン 原作:W・R・バ−ネット 脚本:ベン・マド− 撮影:ハロルド・ロッソン 音楽:ミクロス・ロ−ザ 出演:スタ−リング・ヘイドン/サム・ジャフェ/ルイス・カルハ−ン/マリリン・モンロー
フィルム・ノワールの傑作だ。結局は失敗してしまう男の集団を描く作品の多いジョン・ヒューストン監督だが、本作も例に漏れない。「犯罪とは、人間の努力が裏側に表れたものにすぎない。」という悪徳弁護士(ルイ・カルホーン)の台詞は、原作者W.R.バーネットの小説から取った言葉のようだが、実はジョン・ヒューストンの本音なのであろう。大仕事に参加する個々人の性格や嗜好性、過去現在の環境が抑えたタッチで写実的に描かれ、観客が感情移入しやすいように仕向けている。スターリング・ヘイドンの乾燥した演技も、本作にマッチしているように思う。彼の夢は、父親が手放した馬牧場を買い戻すことだ。主犯のサム・ジャッフェの夢は、犯罪稼業から足を洗い、メキシコで女性を侍らせ穏やかに暮らすこと。それぞれの夢を明確にすることで、動機もはっきりする。ジーン・ヘイゲンの化粧を落とす場面は、秀逸。私の好きな俳優ジョン・マッキンタイア扮する警察のコミッショナーが最後の方で、賄賂を取った警官ディトリッチ(バリー・ケリー)について、こういう警官はいて当たり前で、その他大多数は真面目な警官だ・・というような主旨の発言をしているが、陳腐で全く不要な台詞のように思えた。サム・ジャッフェは、女好きであることが、最後に命取りになる。ジェームズ・ホイットモアのせむしの食堂主も最高のキャラクターだ。小心者の賭場オーナーのマーク・ローレンスも良い。弁護士のルイ・カルホーンは、名士風でいて胡散臭さを振りまいて、適役。プロジェクトにたかる私立探偵にブラッド・デクスターも出演している。ちょい役ながら、カルホーンの情婦役でマリリン・モンローも登場していて、かなり濃厚な色気を発散している。〈allcinema TNO〉

◎近頃の犯罪映画は恐らくこの作品から多くのネタを頂いているのだろう。犯罪の計画を分刻みで立案し、それを実行して行く過程が丁寧に描かれてサスペンスを盛り上げる。特に金庫破りのシ−ンはリアルで、まるで実際の犯行現場を覗き見るような緊迫感があった。これに比べると近頃の犯罪映画の実行シ−ンはスマ−ト過ぎてリアルさに欠ける憾みがある。サスペンスとは何気ない伏線の置き方から生じるのだということを、事故で最初の犠牲者となる金庫破りの男の心配事が、風邪を引いている息子のことであったり、主犯のサム・ジャフェが女好きであるという設定が、逃避行の途中で立ち寄った食堂で出会った女の子の、妙に扇情的なダンスに目を奪われるジュ−クボックスのシ−ンのサスペンスを盛り上げたりと、さすがにジョン・ヒュ−ストン、伏線ということを教えられました。脱帽!呑気呆亭