5月24日(金)「風と女と旅鴉」

「風と女と旅鴉」('58・東映)監督:加東泰 脚本:成沢昌茂 撮影:坪井誠 照明:中山治雄 音楽:木下忠司 出演:中村錦之助/三國連太郎/丘さとみ/長谷川裕見子/薄田研二/殿山泰司/加藤嘉
★加東泰監督による股旅時代劇。島帰りの中年やくざ・仙太郎(三國)とチンピラやくざ・銀次(中村)が、奇妙な友情を感じ合い、銀次の故郷へ戻ってきてまきおこす騒動を描いている。銀次はその故郷の村で、かつて父母を悲惨な死に方で亡くし、追われるように村を去ったのだが、帰ってきた銀次を迎える村人たちの眼は冷たい・・・。
中村錦之助をはじめ出演者全員がノ−・メイキャップの素顔で登場し、全場面がアフレコいっさいなしの同時録音。加藤監督のありのままの自然さを追求しようとする意気込みがうかがえる。仙太郎に扮する三國連太郎が、いつも銀次に村の人たちと仲良くすることを諭す、苦労性の渡世人を渋い味で好演。錦之助も、ひねくれた若者の姿をみごとに演じていて、白塗りのない素顔で、いたずらっぽくにやける姿が、妙にかわいらしい。加東泰監督得意のロ−・アングルのカメラが効果を発揮し、叙情的で心温まる作品になっている。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎仙太郎と銀次の出会いから盗賊と間違われて銀次が鉄砲で撃たれ、加藤嘉長谷川裕見子の親子の家でその傷の養生に寝ている間に、長谷川と仙太郎の間にほのかな心の通い合いが生まれる。所がその間に銀次が割り込んで中を裂いてしまう。この辺りの加藤を含めた四人の描写が面白く、長谷川裕見子という人のかわいらしさを発見した思いがあった。そこにもう一人の女、町の有力者の下女である丘さとみが登場してから話がややこしくなる。子分を多く抱えた土地のゴロツキがその有力者である両替屋に乗り込んできて千両箱を強奪して、仙太郎がそれの取り戻しを依頼されるのだが、この辺りから話が類型的になり、ご都合主義になってしまうのは、脚本の練り方が足りなかった故だろう。しかし、この映画の錦之助を見ていると、彼の映画界への登場が裕次郎の登場と同じ革命的な意義を持っていたのだろうなと納得させられる。呑気呆亭