5月25日(土)「にあんちゃん」

にあんちゃん」('59・日活)監督・脚本:今村昌平 原作:安本末子 脚本:池田一朗 撮影:姫田真佐久 美術:中村公彦 音楽:黛敏郎 出演:長門祐之/吉行和子/松尾嘉代/二谷英明/沖村武/前田暁子/北林谷栄/小沢昭一
★10歳の少女・安本末子の綴り方(日記)の映画化。昭和28年の春、不景気に覆われた佐賀県の小さな炭鉱町を舞台に、20歳の喜一を頭に、父母のいない4人兄弟が、貧しくてもけなげに生きる姿を描いている。今村監督の演出は重厚なリアリズムで貫かれていて、観客の涙を誘うようなセンチメンタルな描写を回避している。現地ロケをいかして、炭鉱町に生きる人々の姿をビビッドに捉えている。栄養失調になりながらも明るく元気な末子を演じる前田暁子をはじめ、子役たちの好演も印象深い。今村監督はこの作品で文部大臣賞を受賞したが、このような賞をもらってはいけないと自戒し、「豚と軍艦」を製作したという。
(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎監督今村昌平と共同脚本の池田一朗が後年の作家「輶慶一郎」であることはよく知られている。輶は'23年生まれ、今村は'26年生まれだから輶が3歳年長。輶が友人に奨められて初めて映画の脚本「お母さんの結婚」(監督:斎藤達雄)を書いたのが'53年だから、輶が映画界と関わったのは20代の終わりごろだったろう。翌'54年に「坊ちゃん社員」を書いている。その頃今村は松竹撮影所で助監督をしていたが、日活に移籍して'55年の「愛のお荷物」で川島雄三に付いている。輶は東宝の作品をいくつか書いた後、'56年の「ただひとりの人」(監督:吉村廉)で初めて日活の作品を書き、同じ年の「愛情物語」(監督:堀池清)以降もっぱら日活の脚本を書くようになった。今村は川島雄三に「幕末太陽傳」('57)までついて、'58年に「盗まれた欲情」を初監督する。同じ撮影所に所属してすれ違ったことはあっただろうが、この「にあんちゃん」まで仕事上の接触はなく、この作品1本で協働は終わっている。後年の作品を見れば共に鬼才といっていい二人がこれ1本で終わったことは、(輶は他の監督とは繰り返し協働作業をしているから)何やら想像を逞しくさせるモノがある。その大きな体の鬼才二人が、10歳の少女・安本末子の綴り方(日記)を作品にするべく、向かい合って頭から湯気を立てている様を想像すると何んとも可笑しい。映画はにあんちゃんの沖村武と末子の前田暁子の健気な兄妹が貧しい炭鉱の町の中を走り回るのを見ているだけで、涙・笑・涙・笑が自然に溢れるように作られている。脇を固めた俳優陣も素晴らしいのだが、クレジットに小沢昭一殿山泰司の名が記されていないのはどういうことだったのだろう。呑気呆亭