5月15日(水)「大いなる遺産」

「大いなる遺産」('49・英)監督:デビッド・リ−ン 原作:チャ−ルズ・ディケンズ 脚本:ケイ・ウオルシュ/アンソニ−・ハヴロック=アラン/デビッド・リ−ン/セシル・マッキャヴァ−ン/ロナルド・ニ−ム 撮影:ガイ・グリ−ン 音楽:ウオルタ−・ゴ−ル 出演:ジョン・ミルズ/バレリ−・ホブソン/ジィ−ン・シモンズ/アンソニ−・ウエイジャ−/アレック・ギネス
ディケンズの小説を映画化した文芸作品。17世紀初頭のロンドン郊外。伯母夫婦に養われている孤児のピップ少年は、近くの大きな屋敷に住む美しい少女エステラが唯一の心の友だった。そんな彼が20歳になった時、ある人物から莫大な遺産が与えられる・・・。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎少年ピップの運命が亡き母の墓参りでの脱獄囚との出会いから大きく舵を切って動き始める。この脱獄囚と富豪の婦人と遺産管理の弁護士の三人が見かけも性格もおどろおどろしくて、この映画のホラ−めいた雰囲気を盛り上げる。それにも増してホラ−なのは、なんとこの年二十歳のシモンズが演ずる美少女エステラである。少女にしてこのオトコを操る手管、ピップを散々苛めておいて最後に頬へのキスを許すという、少年ならだれもが一度は夢見た、或いは体験したことのある初恋という残酷な経験。ピップを演じたウエイジャ−少年はまさに年若い男の子の誇りと悲しみと切ない憧憬を体現して秀逸であった。成人してからの物語にはあまり言うことはないが、恩人である脱獄囚に恩を返そうと決意したピップの、それまでは甘かった相貌を一気に変化させたミルズの演技はさすがであった。呑気呆亭