5月11日(土)「彼岸花」

彼岸花」('58・松竹)監督・脚本:小津安二郎 原作:里見紝 脚本:野田高梧 撮影:厚田雄春 出演:佐分利信/田中絹代/有馬稲子/久我美子/佐田啓二/山本富士子/笠智衆/浪花千栄子
小津安二郎が手掛けた初めてのカラ−作品。田中絹代有馬稲子山本富士子の豪華な女優陣を配して、相変わらずの小津調ホ−ム・ドラマで楽しめる。がんこな父・佐分利信は、父に相談なしで結婚相手を決めてしまったことに腹をたて、娘(有馬)の結婚を許さないと言いだす。一方、知人の娘(山本)から自由な恋愛結婚についての意見を求められ賛成してしまう。そんな矛盾だらけでありながら、自分の娘のことになると冷静になれない父親像がおかしく、その妻(田中)が夫と娘を和解させようとひと苦労。里見紝の原作を小津安二郎野田高梧の名脚本コンビが脚色した佳作である。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎最初の天然色作品ということで凝ったのだろうが、白と黒と赤の三色を使ったクレジットの文字が目障りであった。それと茶の間のそこ此処に何気なく置かれたといった態の赤いヤカンが何気なくなくて不自然であった。と、先ずは悪口を書いたが、この映画の成功は何よりも配役の妙であったと思う。頑固おやじに佐分利、したたかなカミサンに田中、そして柔らかな京都弁で頑固おやじをトロかしてしまうおきゃん(古いか?)な娘に山本富士子、そしてその母で小津映画にコミカルな味を持ち込む浪花千栄子。もしこれを父親に笠智衆、娘に原節子を配してしまえばこの映画のコミカルな味は失われてしまったことだろう。茶の間で二度、洋服と和服の格好でまるで熊のようにグルグル回って徘徊する佐分利信の姿が可笑しく、同じおやじとしては身につまされ、思い出すだけで笑ってしまうのである。呑気呆亭