5月8日(水)「錆びたナイフ」

「錆びたナイフ」('58・日活)監督・脚本:舛田利雄 製作:水の江滝子 原作・脚本:石原慎太郎 撮影:高村倉太郎 照明:大西美津男 美術:松山崇 音楽:佐藤勝 出演:石原裕次郎/北原三枝/小林旭/白木マリ/宍戸錠/杉浦直樹/高原駿雄/清水将夫
★−さる新興の工業都市。勝又運輸の社長勝又が、検察庁に召喚された。狩田検事の鋭い追求も、後難を怖れた被害者と目撃者の沈黙の前には無力だった。その殺人事件はまたも迷宮入りとなった。その狩田の元へ、五年前自殺した西田市会議長は他殺だという投書が届いた。投書の主島原(宍戸)は目撃者として自分の他に橘、寺田という二人の男を知らせてきた。島原は西下の途中、何者かに列車から突き落されて死んだ。
橘(石原)は町はずれのバー・キャマラードを寺田(小林)と経営している。彼はかつてやくざであり、恋人のために人を刺し殺した前科がある。アナウンサーの啓子(北原)が橘と学校友達間野とキャマラ−ドに飲みに来て、目撃情報を提供してくれるよう依頼に来た狩田と橘との会話を聞いてしまう。橘は啓子が持参した街頭録音のテープで、五年前の自分の恋人が暴行された事件は大勢の男が関係していることを知った。そして、寺田が彼にかくれて、勝又から金を貰い、ズべ公の由利と遊び廻っていたことを知り寺田を怒鳴りつけた。寺田は兄貴の恋人暴行事件の張本人は勝又だと捨ぜりふして飛び出して行った。〈goo映画〉

◎当時の日活撮影所の製作陣の力量が発揮された名作である。監督・脚本の舛田利雄はもちろんだが、照明と撮影の連携が見事。バ−の裏手で橘と狩田が話し合う場面、裏口の扉がそっと開いて啓子の影が映り、それを遠景で窺っている勝又たち悪党の顔が闇に浮かび上がる。その四人の顔だけが浮かび上がるショットが素晴らしい。場面はほとんどが夜の設定なので、モノクロの映像が美しく、夜の海岸通りを疾走する輸送トラックでのカ−チェイスや、大詰めの黒幕間野(清水)と橘の海辺での仕込み杖とナイフでの闘争シ−ンも嬉しくなるほどの映画的な迫力に満ちていた。ラストシ−ン、恋人の仇の間野を啓子の願いを入れて殺さず、傷心を抱えて砂山の向こうに歩み去る橘の後ろ姿。その後を狩田の“君が行ってやらなければ・・・”との言葉に促されて追う啓子の姿を捉えたロングショット。手前の砂山に今度は使われなかったジャックナイフが刺さって鈍い光を放っていたのだった。呑気呆亭