5月1日(水)「ビフォア・ザ・レイン」 番外上映

「ビフォア・ザ・レイン」('94・英・仏・マケドニア)監督・脚本:ミルチョ・マンチェフスキ− 撮影:マヌエル・テラン 音楽:アナスタシア 出演:グレゴワ−ル・コラン/ラビナ・ミテフスカ/カトリン・カ−トリッジ/ラデ・シェルベッジア/ジェイ・ヴィラ−ズ
マケドニアの美しい山岳地帯。まるで歴史に取り残されたかの様に佇む修道院で、沈黙を守る若い僧・キリルと少女の物語「言葉」、ロンドンを舞台に写真エージェントで働く女性編集者・アンとカメラマンで愛人のアレックスとの愛の模様を描く「顔」、アレックスを主人公に、名声も仕事も捨てて故郷の村を訪ねた彼がかつて好きだった女性と出会うエピソード「写真」の3話オムニバスで描く人間ドラマ。物語の舞台をマケドニアからロンドンへ、さらにもう一度マケドニアへと巧みに移動し、登場人物を交錯させ、微妙に繋がりながら最後に映画全体がねじれた循環構造である事を露呈させてゆく。卓越した映像センスと確かな演出力、繊細な心理描写で、人間の愛情、哀しさ、そして“業”を感じさせる人間ドラマの秀作。94年ヴェネチア映画祭金獅子賞以下10部門受賞作。<allcinema>

◎第一部「言葉」、マケドニアの山岳地帯の夜空にかかる無数の星と巨大な月の景色が異様に美しく、その景色の元で展開される文字通り黙示録の世界でのような沈黙の行を守る若い僧と少女の「言葉」を媒介することのない出会いと破局が、この作品の異次元への展開を暗示する。第二部「顔」ではロンドンの近代的なオフイスに働く女性編集者のファイルボックスに還俗した若き僧の打ちのめされた肖像をさりげなく見せ、第三部「写真」ではその「顔」を撮影したカメラマンが故郷のマケドニアの村へ、メビウスの輪を辿るようにして冒頭の事件の発端へ戻って行き、捩れた時空を閉じるかのように少女を守って死んで行く。美しい映像と奇妙な錯乱を覚えさせるドラマの心地よさの中に、マケドニアの村人たちが抱える銃器の生々しさが異様にリアルな感触をもって挿入される。この違和感こそが作者の意図したものだったのだろうか。呑気呆亭