3月28日(木)「風船」

「風船」('56・日活)監督・脚本:川島雄三 原作:大佛次郎 脚本:今村昌平 撮影:高村倉太郎 出演:森雅之/高野由美/三橋達也/芦川いづみ/左幸子/北原三枝/新珠三千代
大佛次郎新聞小説を、川島雄三が助監督の今村昌平とともに脚色した大人の愛の物語。かつて天才画家としてもてはやされた村上春樹は、今では写真工業会社の社長として成功していた。息子の圭吉は父の会社の部長を務め、久美子という愛人がいた。圭吉の心が他の女性に傾いたことを知った久美子は自らの命を絶つのだった。圭吉に絡む2タイプの女を新珠三千代北原三枝が好演。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎以前VHSを購入した時に観た時には気が付かなかったのだが、この映画の真の主役はプレイボ−イ圭吉(三橋)の妹珠子(芦川)であるようだ。彼女を川島はいわば狂言回しのように使って、大人達の思惑が入り乱れるドラマを語って行くのだが、実はその大人達のドロドロとした愛欲沙汰を真心という球で綴り合わせてゆくのがこの文字通りの珠子なのである。そうしたびた銭沙汰に愛想をつかした父親の春樹が、会社社長の職を捨てかつて暮らした京都に移ろうとして、妻と珠子に同行を求めるが、妻は圭吉に付き珠子は家族の崩壊を予感して同行を拒絶する。しかし、春樹が京都の下宿に落ち着いて再び画業に生きようと暮らし始めたころ、下宿の娘に誘われて出かけた盆踊りの場で、晴れ晴れと江州音頭を踊る珠子の姿を見出したのだった。春樹役の森雅之が骨太な父親役を好演し、悪党を装う複雑な性格のナイトクラブ経営者を二本柳寛が見事に造形している。呑気呆亭