3月23日(土)「犯罪河岸」

「犯罪河岸」('47・仏)監督・脚本:アンリ=ジョルジュ・クル−ゾ− 原作:S=A・ステ−マン 脚本:ジャン・フェリ− 出演:ルイ・ジュ−ヴェ/シャルル・デユラン/ベルナ−ル・ブリエ/シモ−ヌ・ルナン
★戦後まもない46年のパリ。音楽出版社を訪れた町の歌手たちは、夫モーリスのピアノ伴奏で唄うジェニーの声量とフィーリングに驚く。彼女はたちまちスターとなり、旧友の写真師ドラは雑誌用のポートレイトを撮る。そこへ、映画会社も持つ財閥総帥ブリニョンが趣味の写真を彼女に撮らせにモデルを連れてやってくる。映画界とのコネができたと喜ぶジェニーに、彼は危険人物だとドラは忠告し、彼の事務所に向かったジェニーをモーリスが奪還しに行く騒ぎ。ところが、また夫のいないスキに、ブリニョンの自宅に出かけるジェニー。住所を書いたメモを見つけ、モーリスが乗り込むとブリニョンは死んでいた。その頃ジェニーはドラに経緯をすべて告白していた。犯されかけ夢中で酒瓶で撲った、と……。それ言わんことかとドラは、証拠隠滅にブリニョン宅を訪れる。そして、モーリスのためにも嘘をつき抜くことをジェニーに誓わせるのだったが、そのため夫が窮地に追い込まれることに……。
 以降、“刑事コロンボ”のように現れるL・ジューヴェの刑事アントワーヌが、いかに観客に既に分かっている事実を精密に解き明かしていくかが興味の対象になるが、最後にちょっとしたドンデン返しがあって真犯人が明らかになる仕掛けも、複線の張り方が意外で充分に楽しめる。しかし、ミステリーと呼ぶより、ひねりの効いた世話物という感じで、何とも人間的なジューヴェ(植民地で兵隊だったという設定で混血の息子と二人暮らしだ)を始め、モーリスに秘かに恋するドラの女心にも、夫婦の痴話喧嘩の凄まじくも愛らしい感じにも大変魅了される。それにもうクルーゾーの語り口のうまさゆえ、と言う他なく、彼がベネチア映画祭で監督賞を受けたのも頷かされる。原作はS・A・ステーマンの『正当防衛』<allcinema>

◎ルイ・ジュ−ベの刑事役は良いのだが、写真師ドラに慕われ妻で歌手のジェニ−にも愛されている亭主役のシャルル・デュランが、どうしてこんなにモテるのか腑に落ちない風貌であり、することなすことじれったくらいの小心者なので、今一感情移入出来なかった。呑気呆亭