3月2日(土)「おえんさん」

「おえんさん」('61・東宝)監督:本多猪四郎 原作:中野実 脚本:西島大 撮影:飯村正 美術:北辰雄 音楽:斎藤一郎 出演:水谷八重子/小泉博/司葉子/中山豊/中北千枝子/清水将夫/藤原釜足
★魚河岸の市場で、男ばかりの仲買人にまじって、おえんは威勢よく働いていた。愛情のない結婚だったが、早く夫に死なれたあと、一人息子広志の成長を楽しみに二十年間、男の世界で生活を支えた。広志は河岸の天ぷら食堂の珠子と恋仲になり、おえんは二人の仲を認めたものの、いざ結婚となると息子を奪われるような気がして、はっきり承知できなかった。その頃ブラジルで成功した谷が観光団長として帰国し、おえんの姉光江に会った。〈Goo映画〉

◎新派の大女優先代水谷八重子が魚市場の仲買人を演ずるというミスマッチが面白い。映画の中でまだ五十歳前と明かされるので、'05年生まれの水谷は実年齢の女を演じている訳だが、これが何とも瑞々しい年増で、息子への恋情を言葉と一寸した仕草で表す母親役を危ういほどの色気を見せて演じている。小泉と司のエピソ−ドはまるでこの母親の秘められた情念を炙り出すための仕掛けとしか思われないのだった。呑気呆亭