3月1日(金)「大利根の対決」

大利根の対決」('55・日活)監督:冬島泰三 脚本:伊藤大輔 撮影:伊藤武夫 音楽:佐藤勝 出演:島田正吾/辰巳柳太郎/花柳小菊
★左腕のない渡世人朝吉(島田正吾)をめぐる新国劇オールキャストの人情劇。朝吉は三年前死んだ女房千代に生き写しのお安(花柳)の常磐津に惹かれ、夫の徳次郎の養生に役立てればと金を出す。ところが朝吉を追うヤクザにお安は斬り殺され、朝吉の仕業と誤解した徳次郎とヤクザに朝吉は命を狙われる。生まれ故郷の下総に戻った朝吉を追って徳次郎とヤクザも利根の川辺に現れるのだが、そこにかつて朝吉と芸者のお千代を争ってコケにされ、それが元ですっかり落ちぶれた侍(辰巳)が現れて三ツ巴の闘いが始まるのだった。

◎映画の見どころとしては前半のお安と朝吉の、お安の唄う常磐津を廻っての交情が艶やかな彩りがあって好ましい。花柳小菊常磐津は張りがあって、その唄声がメイン・テ−マのように箱根の湯治場に流れて、左腕をヤクザ渡世のいざこざから失った朝吉と、腕の良い宮大工でありながら右腕を傷めて湯治に来ている徳次郎とが、お安という仲立ちによって互いに顔を知らぬ同志ながら好意を抱き始めるという物語の流れも自然で好ましい。それに比べると、お安がひょんなことから朝吉を追うヤクザに殺されてからの後半は、やや情感に乏しく、辰巳の登場も唐突で今一感情移入の出来ぬモノになってしまったのが惜しまれる。呑気呆亭