2月28日(木)「生きものの記録」

「生きものの記録」('55・東宝)監督・脚本:黒澤明 脚本:橋本忍/小国英雄 撮影:中井朝一 美術:村木与四郎 音楽:早坂文雄 出演:三船敏郎/東郷晴子/志村喬/千秋実/清水将夫/三好栄子/青山京子/太刀川洋一/千石規子/三津田健一
★一貫して反戦を訴え続けた黒澤明監督が、過熱する米ソの核軍備競争や1954年に起きた“第五福竜丸事件”などで盛り上がる反核の世相に触発されて原水爆の恐怖を真正面から取り上げた異色のヒューマン・ドラマ。町工場を経営する財産家・中島喜一は突然、原水爆とその放射能に対して強い恐怖を抱くようになり、地球上で唯一安全と思われる南米ブラジルへの親類縁者全員の移住を計画する。しかし、このあまりにも突拍子もない行動に対し、現実の生活が脅かされると感じた家族は喜一を準禁治産者として認めてもらうため裁判にかけるのだった。<allcinema>

三船敏郎の老け方(顔のメ−キャップだけではなくはだけた浴衣から覗く肋骨の衝撃!)の凄まじさに圧倒されながら、応酬される台詞の切実さに辟易しつつ、オヤ!と思うシ−ンに黒澤らしからぬ演出を幾つか見た。例えばそれは家庭裁判所の調停員の三人が言葉を失って、う、む、む、と身振りのみでのやりとりをするシ−ンの面白さ。思い出したのは「十二人の怒れる男」と黒澤の「羅生門」のラストだった。それと、幾度か繰り返される裁判所の階段でのすれ違いのシ−ンの素晴らしい構図。「静かなる決闘」で印象的な看護婦を演じた千石規子のほとんど台詞がないにも関わらず圧倒的な存在感を見せる演技。次男にニンゲンはいつかは死ぬんだと言われて、“死ぬのはやむをえん、だが殺されるのはいやだ!”との言葉に表されるこの映画のテ−マは、3.11以後の今こそ問われるべき課題であると、見終わってう、む、むと、言うべき言葉を失って思ったことだった。呑気呆亭