2月27日(水)「月は上りぬ」

「月は上りぬ」('55・松竹)企画:監督協会 監督:田中絹代 脚本:斎藤良輔/小津安二郎 撮影:峰重義 美術:木村威夫 音楽:斎藤高順 出演:笠智衆/山根寿子/杉葉子/北原三枝/安井昌二/佐野周二/田中絹代
斎藤良輔小津安二郎が共同で執筆した脚本を、田中絹代が「恋文(1953)」に次ぐ第二回作品として監督に当り、「かくて夢あり」の峰重義が撮影に当る。主なる出演者は映画の役名をそのまま芸名とした四方正夫改めの新人安井昌二、「女人の館」の北原三枝、「悪の愉しさ」の杉葉子、「喧嘩鴉」の山根寿子、「二十四の瞳(1954)」の笠智衆、「三つの愛」の三島耕、「鶏はふたたび鳴く」の佐野周二のほか、小田切みき田中絹代、汐見洋など。
戦争で奈良へ疎開したまま住みついた浅井家には、未亡人の千鶴、未婚の綾子、節子の三姉妹がある。千鶴の亡夫の弟昌二は失職して寺に間借りをしているが、節子は彼と愛しあっていた。昌二の旧友で電気技師の雨宮が出張して来たとき、節子は彼が綾子の少女時代をよく覚えているのを知り、二人を結びつけようとする。そして偽の電話で二人を呼び出して、月の出の公園で会わせたりする。こんな事から二人は愛情を抱き、帰京した雨宮は綾子と万葉集の恋歌を番号で記して電報のやりとりをするようになる。そして綾子は東京の叔母の勧める縁談を断る口実で上京した。ウブサイト、〈Goo映画〉

◎古都奈良の寺院での謡の稽古の場面で主要な登場人物を一気に紹介して、その一家を巡る物語を、田中絹代は、これが監督第二作とは思われぬ腰の据わった演出で淡々と流れるように描いて行く。自らもお手伝いの米やというコミカルな役を演じて物語を味付る点景としながら、見事に後味の良い佳作を撮り上げたのだった。脚本の小津と斎藤は、次女の綾子(杉)と雨宮(三島)の恋心を万葉集の歌番号の応酬で表すという洒落た仕掛けで見せ、三女の節子(北原)と昌二(安井)の仲直りの場面を、初手は暗い背景で会話を始めさせ、仲直りが成ると共に薄明から一気に煌々とした月明かりに照らされた寺院の庭を浮かび上らせて、この映画の題名の「月は上りぬ」を見事に暗示させたのだった。この手柄はもちろん田中の演出と撮影と照明技師のものでもあるのだが、実に嬉しくなるような映画的手法であった。呑気呆亭