2月16日(土)「噂の娘」

「噂の娘」('35・東宝)監督・脚本:成瀬巳喜男 撮影:鈴木博 音楽:伊藤昇 美術:山崎醇之輔 出演:汐見洋/御橋公/千葉佐智子/梅園龍子/伊藤智子/藤原釜足/大川平八郎
チェーホフの『桜の園』にヒントを得て、成瀬巳喜男が脚本・監督を務めた作品。「妻よ薔薇のやうに」に続き、後に成瀬夫人となる千葉早智子が主役を演じた。
健吉(御橋)は妻を亡くし、長女の邦江(千葉)と一緒に酒屋を営んでいた。しかし隠居中の義父(汐見)が浪費家で、店の経営は苦しくなるばかり。また次女の紀美子(梅園)は毎晩のように男友達と遊び歩いていた。邦江は店の経営を立て直すため、家柄の良い相手と見合いをすることに。また彼女は、自分が家を出て行くことで、父の愛人(伊藤)に家に来てもらおうとも考えていた。しかし見合いは紀美子のせいでうまくいかないばかりか、見合い相手を紀美子に取られてしまう。そんな折、健吉は酒に細工をして利益を上げようとしていた…。

◎「桜の園」にヒントを得て成瀬が脚本を書いたというが、そんな名作の香りを少しも感じられぬ凡作である。没落して行く一家を支える長女の邦江の化粧が濃すぎるし、事態が進行する過程に対して少しも変化しない凡庸な性格にイライラさせられる。父親の健吉も収益を上げようとして酒に細工を施すという姑息な手段を取るという、およそ商売人のモラルを感じさせぬ男で、義父の浪費くらいでオタオタし、面と向かって意見をすることも出来ない性格の弱さを見せ、そのくせちゃっかり自分も愛人を囲うという、どうにも感情移入の出来ないキャラクタ−で、成瀬は何を言いたかったのか一向に分らないままに終わってしまうのだった。「噂の娘」のタイトルは何のタメだったのか。呑気呆亭