2月12日(火)「新諸国物語・笛吹童子」

「新諸国物語・笛吹童子」('54・東映京都)監督:萩原遼 原作:北村寿夫 脚本:小川正 撮影:三木滋人 音楽:福田蘭童 出演:大友柳太郎/月形龍之介/中村錦之助/東千代之介/高千穂ひづる/田代百合子
応仁の乱のあとのこと、丹波国満月城々主・修理亮のふたりの息子は、明国に留学し、兄の萩丸(千代之介)は武芸を、弟の菊丸(錦之助)は面作りを学ぶ。また、弟は笛吹童子と呼ばれる笛の名人であった。不吉な前兆にふたりが帰国してみると、城は野武士の首領・玄蕃(龍之介)に乗っ取られ、父は自害していた。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎その頃、夕方の5時30分(だったと記憶しているが正確ではない)になると、町から子どもたちの姿が消え、まるでハメル−ンの笛吹きの吹くかのような♪ヒャラ−リヒャラリコ♪という不思議な音色に引き寄せられて、それぞれの家のラジオの前にかしこまって耳を澄ませるのだった。それがこの映画の原作となった「新諸国物語」だったのだが、子どもにとってその物語の原作者よりも、その不思議な音色の作者である「福田蘭童」の名前だけがくっきりとした記憶となったのだった。
この年(67歳)になって見直してみると、やはり開幕から流れてくる♪ヒャラ−リヒャラリコ♪の音色に妖しく胸が躍り出すのを感じたのだった。音楽というモノの力は侮れないものがあると今更だが思ったことであった。
映画は第一部「どくろの旗」第二部「妖術の闘争」第三部「満月城の凱歌」の三部構成になっていて、第一部のラストに近く登場する霧の小次郎という妖術使いが、漸く現れた主役なのだった。その霧の小次郎を演ずる大友柳太郎という役者の奇っ怪な個性が、ともすれば絵空事に陥りかねぬこうした空想冒険活劇を引き締めて飽きさせない。その小次郎の妹の胡蝶尼を演じた高千穂ひづるの可愛らしさも特筆ものであった。役者の力と音楽の魔力をいまでも存分に味わえる快作である。呑気呆亭