1月29日(火)「蟹工船」

蟹工船」('53・北星社)監督・脚本:山村聰 原作:小林多喜二 撮影監督:宮島義男 撮影:仲沢半次郎 音楽:伊福部昭 出演:山村聰/森雅之/日高澄子/中原早苗/河野秋武/森川信/花沢徳衛/河原崎しづ江
小林多喜二によるプロレタリア文学の名作小説を、山村聡が脚本・監督・出演し映画化した人間ドラマ。山村にとっては初めての監督作品となった。音楽は伊福部昭が担当。2009年にはSABU監督により再映画化された。
昭和初年。不況で仕事にあぶれた労働者や農夫たちが続々と函館港に集まっていた。彼らが乗り込むのは蟹工船の博光丸。蟹工船とは北洋で蟹漁を行い、船内に加工設備を持つ母船のことだ。嵐の中で病人が続出するが、監督の浅川は労働者の体よりも作業を優先させる。浅川をはじめ幹部たちの非道ぶりは日に日にエスカレートし、救援を求める船を無視し、遭難者を見殺しにし、反抗する乗組員を殺害した。ついに乗組員たちは仕事をボイコットし、監督に要求書を叩きつけるのだが…。
<allcinema>

◎見ていると懐かしい顔が続々と出てくる。森川信などは団子が売れないので出稼ぎに来たのかと思えるし、河野秋武も日々成長して行く労働者を好演、特に監督の浅川が付き付ける拳銃に怯えながらも果敢に要求書を読み上げるシ−ンは圧巻であった。蟹漁の操業シ−ンもまるで本業の漁夫たちのように全員が取り組んでいたのは、よっぽど鬼監督(浅川?山村?)に鍛えられたのだろうと思われた。昔見たテレビの北洋漁業を扱ったドキメンタリ−で、“ここで働く作業員には泳げることは必要でない”、すなわち極寒の海に落ちれば瞬時に命を失うという意味なのだが、その仕事の厳しさと労働者たちが食事時に頬張る暖かい炊き立ての飯と味噌汁の旨そうな様子に、働くことと食うことの原点を見る思いがしたものだった。そうした視点がこの映画にあれば「戦艦ポチョムキン」に匹敵する傑作になっただろうと思うのは、無い物ねだりなのだろうが惜しまれる。呑気呆亭