1月26日(土)「天井桟敷の人々」

天井桟敷の人々」('45・仏)監督:マルセル・カルネ 脚本:ジャック・プレベ−ル 撮影:ロジェ・ユベ−ル 音楽:ジョセフ・コスマ 出演:アルレッティ/ジャン・ルイ・バロ−/マリア・カザレス/ピエ−ル・ルノワ−ル
★フランス映画史に残る古典として知らぬ者のない名作だ。時の摩耗にも耐えて、常にフランス映画の顔として君臨してきた作品。プレヴェール=カルネのコンビの数ある“詩的リアリズム”作品の中でも、人間絵巻としてのボリューム感、横溢するロマンチシズム、純化された19世紀の風俗再現と、類を見ない、フランス人にとっての永遠の一作なのだ。1840年代パリのタンプル大通り。パントマイム役者バティスト(バロー)は、裸に近い踊りで人気のガランス(アルレッティ)に恋をする。犯罪詩人ラスネールや俳優ルメートルも彼女に夢中だ。一方、バティストの属する一座の座長の娘ナタリーはバティストを愛していた。ラスネールと悶着のあったガランスもその一座に加わるが、彼女の前には新たな崇拝者モントレー伯が現れる……、とここまでが第一部。第二部は、5年後のバティストはナタリーと、ガランスは伯爵と結婚。前者には一子もあった。が、ガランスを忘れられぬバティストはルメートルの手引きで彼女と再会。一方、劇場で伯爵の侮辱を受けたラスネールはトルコ風呂で彼を襲撃し殺す。一夜を明かしたバティストとガランスの前には子連れのナタリーの姿が……。ガランスは身を引く覚悟を決め、カーニバルの雑踏の中に消えていく。後を追うバティストの彼女の名を呼ぶ声、この壮大なラストシーンと、純粋すぎるほどに熱いバローの名演、アルレッティの妖艶さは、まさに古典たるに相応しい風格を持って、映画の未来にも永遠に記憶されるに違いない。<allcinema>

◎スクリ−ン上で見なければその真価が分らない映画というものがあるが、この作品はまさにその代表的な一本であろう。テレビ画面で何度か見て確かにジャン・ルイ・バロ−の凄さは分ったが、先日たまたまこの映画をスクリ−ン上で観る機会があって、自分が何も見ていなかったことに気が付いた。
知らなければいけなかったのはこの映画が先の大戦中、まがりなりにもドイツからの独立を保っていたヴィシ−政権下の南フランスで製作されたということだ。すなわちこの映画のパリの街はすべてセットであったということ。そのセットに充満し渦巻く民衆の猥雑なエネルギ−をこれでもかこれでもかと白いキャンバス上に叩き付けることで、カルネは恋愛模様を描くと見せて、かつて世界に先駆けて民衆革命を成し遂げた民族の誇りを取り戻そうぜと、いまだ占領下にあるパリへ向けて発信したのだった。呑気呆亭