12月6日(木)「市民ケ−ン」

「市民ケ−ン」('41・米)監督・脚本:オ−ソン・ウェルズ 脚本:ハ−マン・J・マンキ−ウイッツ 撮影:グレッグ・ト−ランド 音楽:バ−ナ−ド・ハ−マン 出演:オ−ソン・ウェルズ/ジョゼフ・コットン/ドロシ−・カミンガ−
★ 新聞王ケーンが、“バラのつぼみ”という謎の言葉を残して死んだ。新聞記者のトンプソンは、その言葉の意味を求めて、生前のケーンを知る人物にあたるが…。様々な人物の証言から、新聞界に君臨した男の実像が浮かび上がる、斬新な構成と演出で評判を呼んだ、ウェルズ弱冠25歳の処女作。決して時代の動乱に翻弄された訳でもなく、運にも才気にも恵まれ、望む物全て手に入れることが出来たはずなのに、虚無に囚われたまま、結局、何一つ得ることのできなかった哀れな男の生涯。人生を誤った敗北者の虚しい姿が、ラストで明かされる“バラのつぼみ”の正体によって、観る者の胸をえぐるが如く、赤裸々に浮かび上がる。<allcinema>

◎二番目の妻のためにチャ−リ−が築いたオペラハウスと禍々しい宮殿のように、この映画はオ−ソン・ウェルズのでっち上げた壮大なフェイクである。ウェルズは当時の新聞王を戯画化しようとして却って己の死に至る自画像を描いてしまったようだ。新聞社を手に入れた時の若々しい25歳のチャ−リ−・フォスタ−・ケ−ン(この姿には真の魅力が有ったのに!)から醜悪な末期の姿に至るまでの変貌は、欧州旅行と政界進出の挫折をそれぞれの画期として次第にデカダンに深まって行くのだが、演出者兼演技者ウェルズはその変貌の一々の仮面を偽悪的にかつ嬉々として被るかに見える。しかし、策士策に溺れるの例えどおり、却ってミイラ取りがミイラになって、呪われた末期の姿を暗示的に曝す羽目に至る。恐らくかの「ロ−ズ・バッド」なるキ−ワ−ドの思い付きからこの映画の企画はウェルズの脳髄の中で始まったのだろうが、そのキ−ワ−ドを探求するサスペンスフルなプロセスそのものが、分ってしまえば、凝りに凝った映像テクニックとセットにも拘わらず、この映画を結句底の浅い作品にしてしまったように思う。呑気呆亭