11月23日(金)「砂塵」

「砂塵」(39・米)監督:ジョ−ジ・マ−シャル 原作:マックス・ブランド 脚本:フェリックス・ジャクソン/ガ−トル−ド・バ−セル/ヘンリ−・マイヤ−ズ 撮影:ハル・モ−ア 出演:マレ−ネ・ディトリヒ/ジェ−ムズ・スチュワ−ト/ブライアン・ドンレビ−/チャ−ルズ・ウイニンガ−
ボトルネックなる西部の町が舞台。ここを牛耳る悪徳市長はいかさま師ケント(憎々しげなB・ドレンヴィ)を使って、酒場の歌手フレンチー(ディートリッヒ)に片棒を担がせ、牧場主クラゲットの土地を根こそぎ、初歩的ないんちき賭博で奪い取る。これに怒った保安官キーオも亡き者とされ、酔いどれのウォシュ(C・ウィニンガー)がその後任に選ばれるが、彼は心を入れ替えて、町のウジ虫一掃に、かつて助手を務めた名シェリフ、デストリーの息子トム(スチュワート)を今度は彼の助手に呼び寄せる。ところが、ナプキン・リングを彫るのが趣味というこの男、腰にガンベルトをぶら下げるわけでもなく、法と秩序を重んじる…と弁は立つが、いっこう頼りない。しかし、頭の方は大変なもので、恐妻家で先夫の名で呼ばれクサっているロシア系の自称“名門の出”ボリスとウォシュ二人きりを使って、市長たちの不正をまずキーオ殺しから暴き、ウォシュがふいを突かれて殺されたとなれば、いよいよベルトを腰に巻き、フレンチー煽動の女性軍の援助も得て、ダニ退治に向かう。ジミーがジミーならではというキャラクターを演じ、マレーネも鉄火肌ぶりをいかんなく発揮。脇の人物も的確に描かれ、全体にユーモラスな味が何とも言えず、ジミーの格言癖も効果満点。繰り返しの鑑賞に堪える愛すべき作品だ。<allcinema>

◎食えない奴という言い方がある。ジェ−ムス・スチュワ−トという俳優は一見善良そうな役柄を演じて、ク−パ−ともウエインとも違ったタイプのアメリカン・ヒ−ロ−を演じてきた。体格はヒョロ長くてまるで強そうではなく頼りなげなので、女性の母性本能をくすぐる憎いヒ−ロ−なのだが、どうしてどうしてコイツしぶとくて食えない奴なのである。その性格を決定付けたのがこの映画だったのではないだろうか。ラストチャンスという笑わせる名の酒場の女主人フレンチ−は、悪徳市長といかさま師のケントとともに町を牛耳ってよろしくやっていたのだが、その目の前にこの若くて食えない保安官補トムが現れ、笑い者にしているうちにいつの間にか心の裡に忍び込まれてしまう。彼の身の危うさを見て取ってフレンチ−が、“早く町を出た方がいいわよ”というのだが、急に様相を変えたトムに、“そんなにワルぶるなよ”“放っておいてよ!”“化粧を落したら美人だろうな”“素顔になってみるといい、違う人生が見つかるぜ”と言われてしまう。これによってフレンチ−の心の中に決定的な変化が生じ、ラスト、彼女はトムを庇ってケントの銃弾に倒れ、その毒々しい色の口紅を拭ってトムに別れのキスを求めるのである。呑気呆亭