11月17日(土)「土と兵隊」

「土と兵隊」('39・日活)監督:田坂具隆 原作:火野葦平 脚本:笠原良三/陶山鉄 撮影:伊佐山三郎/横田達之 音楽:中川栄三 出演:小杉勇/井染四郎/菊池良一/長尾敏之助/東勇路/山本礼三郎
★原作は火野葦平のいわゆる兵隊三部作「麦と兵隊」「土と兵隊」「花と兵隊」からの同名の小説である。監督は「五人の斥候兵」が大ヒットしたため起用となった田坂具隆。軍部の意向で製作された超大作であり、中国大陸で大々的ロケ−ションを敢行している。「五人の斥候兵」以上に本作品はドキメンタリ−・タッチにあふれ、その淡々とした筆致には詩情すら感じられ、素晴らしい出来栄え。派手な戦闘場面も少なく、部隊が転進していく様子をただひたすら捉えている。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎映画は第一部と第二部に分かれている。第一部は中国大陸への上陸作戦から始まって内部への進撃の模様をとらえているのだが、画面はひたすら兵隊たちの進軍の有様を軍靴の音のみを効果音として捉えている。そのモンタ−ジュが少しも退屈でなく延々作品の半分を占めていることに驚かされる。第二部に至って戦闘が始まるのだが、敵のト−チカに対して肉弾戦を挑む兵隊たちの献身的な戦いぶりが、前半の苦しい進軍によって鍛え上げられたからこその勁さに裏打ちされているのだということを、観客(昭和14年当時の)にプロパガンダ的なあざとさとは違った誠実さで訴えかけて行く。そういった意味ではこれは日本映画史上最高の戦争映画であると言えるが、しかしながら、これは日本の中国に対する侵略を描いた映画であると思えば、今の時代にこの作品を鑑賞することに忸怩たる想いもまたないわけではない。ただ救われるのは、この兵隊たちを田坂具隆は血も涙もない東洋鬼ではなくユ−モアと人情に溢れたニンゲンたちとして描いていることである。呑気呆亭