11月16日(金)「次郎長三国志・荒神山前篇」

次郎長三国志荒神山前篇」('54・東宝)監督:マキノ雅弘 原作:村上元三 脚本:小川信明/沖原俊哉 撮影:飯村正 音楽:鈴木静一 助監督:岡本喜八 出演:小堀明男/水島道太郎/河津清三郎/田崎潤/若原雅夫/角梨枝子/岡田茉利子
★吉良の仁吉は祭礼の賭場をめぐる神戸の長吉と安濃徳の縄張り争いの仲裁に立つ。しかし、仁吉は安濃徳の黒幕である黒駒勝蔵を敵に回してしまい、清水一家とともに荒神山で一線をまじえた際に、敵弾に倒れる。結局「荒神山」は前篇だけで後編は作られなかった。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎前作「海道一の暴れん坊」のラストシ−ンは、殺された石松の仇を討つべく槍を持った大政を先頭にした一家の連中が浜辺を走るシ−ンであった。マキノとしてはこの第八部で石松を死なせたことでシリ−ズはもう終りだとして、次郎長一家の解散式をやったという。ところが会社側から「荒神山」という題でもう一作撮れと言って来た。「荒神山の喧嘩」とは共に伊勢の博徒である神戸の長吉と安濃徳の縄張り争いの喧嘩であって、先のラストシ−ンとは繋がらないのである。それを無理やり繋げなければならなかったためと、撮影日数が限られていたために、肝心の荒神山がチラッと映っただけの尻切れトンボな作品になってしまった。マキノの前出の山田宏一氏とのインタビュ−によれば、後編の脚本も出来上がっていたとのことで、東宝という会社の愚かさゆえにこの類まれな「英雄譚」を首尾一貫させることが出来なかった。その悔しさを晴らすために、マキノは'55年に日活で森繁久彌の石松、河津清三郎の次郎長で「次郎長遊侠傳・秋葉の火祭り」「次郎長遊侠傳・天城鴉」を撮ったとのことである。
映画的には、仁吉(若原雅夫)とお米(角梨枝子)の婚礼のシ−ンと、気の強いお米と優さの裏に度胸を秘めた仁吉とのやり取りが面白く、これはこれで後編さえ作られていたら、見事に掉尾を飾る作品になったことだろうと思われて、詮無いことだが惜しまれる。呑気呆亭