11月13日(火)「次郎長三国志・旅がらす次郎長一家」

次郎長三国志旅がらす次郎長一家」('53・東宝)監督:マキノ雅弘 原作:村上元三 脚本:松浦健郎 撮影:飯村正 音楽:鈴木静一 構成:小国英雄 助監督:岡本喜八 出演:小堀明男/若山セツ子/森繁久彌/久慈あさみ/越路吹雪/長門裕之/河津清三郎
★前作「殴り込み甲州路」のラストで勘助を叩き斬って兇状旅にでた次郎長一家だが、お蝶が病気になり、かって急場を救った力士・八尾ヶ岳を訪ねる。八尾ヶ岳は力士をやめ保下田の久六と名を改め、尾張で売り出しの親分になっていたが、実は代官と通じていた。それを知った次郎長は(石松の友だちの)小松村の七五郎の家に落ち着く。そこでお蝶は皆に見守られながら死ぬ…。(ぴあ・CINEMA CLUB)

マキノ雅弘の次郎長という人物像に対する考え方を示す重要なシ−ンがこの第六部にはある。それは保下田の久六の家に落ち着いて久しぶりにお蝶と並んで眠っていた次郎長が、勘助を斬る自分の姿にうなされて飛び起きるシ−ンである。次郎長は第一部の冒頭で、酒の上から喧嘩となった三人のヤクザを海に叩き込むのだが、その安否を心配して海中に踏み込んで捜しまわる。また大政との出会いで、“立派な親分になる人はヒトを殺しちゃいけない”と短気を戒められる。この「次郎長三国志」という連作でマキノ雅弘が描こうとしたのは、一旦怒りを発すると手の付けられない乱暴者となる心優しきスサノオの「英雄譚」であったのである。英雄譚には歌謡が伴う。それは例えば次郎長一家の面々の男性コ−ラスによって謡われるこんな唄だ。♪オイラしんだとてなぁ、だれが泣いてくれよかな、通る山路なぁ…はぁぁ、虫が啼くよう オイラ死んだらさ、路ばた埋めてくれ、蓮華の花はぁぁぁ、春にゃあ咲くよう…♪
この第六部では越路吹雪が小松村の七五郎の女房お園として活躍する。男勝りでいて立居振舞に華がある役柄を、越路が気持ち良さげに演じている。特にその槍を取っての殺陣が見事で、マキノがその自伝「映画渡世」の中で藤純子の「緋牡丹博徒」の殺陣はオトコの真似ごとであって、オンナの殺陣は自ずから違っていなければならないと語っているように、このお園の槍遣いはその言葉どおりの見事なオンナの殺陣であった。しかしまあ、マキノ雅弘というヒトはなんと人を泣かせる名人であることか。呑気呆亭