11月7日(水)「深夜の告白」

「深夜の告白」('39・米)監督:ビリ−・ワイルダ− 原作:ジョゼフ・シストロム 脚色:レイモンド・チャンドラ−/ビリ−・ワイルダ− 撮影:ジョン・サイツ 音楽:ミクロス・ロ−ジャ 出演:バ−バラ・スタンウイック/フレッド・マクマレ−/エドワ−ド・G・ロビンソン
★ ジェームズ・M・ケインのミステリ『倍額保険』を、ワイルダーレイモンド・チャンドラーと共に脚色した傑作サスペンス。保険会社の営業マン、ネフ(F・マクマレイ)は自動車保険の更新に出向いたディートリクソンの家で美しい後妻フィリス(B・スタンウィック)と出会う。彼女は夫に知られずに傷害保険をかけたがっていたが、犯罪の匂いを感じたネフはそれを拒否。だが彼女の魅力に抗しきれないネフは、倍額保険を手に入れるための完全犯罪を考えつく……。ドラマは、深夜、ネフがオフィスで独白している所から始まり、回想形式で進行していく。後に、ローレンス・カスダンが「白いドレスの女」で再現して見せたような、悪女ミステリの古典で、殺人と、それを偽装するトリックや、現れた目撃者によるサスペンスも強烈。スタンウィックの妖艶さも特筆ものだが、ネフの同僚で事件の捜査に乗り出すキーズに扮したE・G・ロビンソンの見せるパワフルな芝居が断然良い。<allcinema>

◎ネフとフィリスの初対面のシ−ン、二階から降りてくる彼女の脚、美しい足首に巻かれたアンクレット。タバコ、マッチ、葉巻、松葉杖、蠟管録音機、拳銃、保険証、車、ス−パ−、等々、実に巧みに(それこそネフの完全犯罪の企みよろしく)配置され組み合わされた小道具と仕掛け、ネフとフィリスの互いに惹かれ合いながらも裏切りに疑心暗鬼の関係、ネフと上司のキ−ズ(ロビンソン)の互いに心を許し合った関係でありながら、知恵比べを挑むネフをそれと知らずに次第に追いつめて行くキ−ズとの関係、それらが重層して畳みかけるようなサスペンスを盛り上げる。しかし、ラストに向かう一連のシ−クエンス、自分を殺そうとするネフを後ろから拳銃で撃つフィリス、その拳銃を奪われて、ネフ“俺を愛していたのか?”フィリス“人を愛したことなどないわ。心まで腐ってるの、あなたを利用しただけ、たった今までそう思っていたのに…、こんな気持ち初めてよ”ネフ“芝居はよせ”フィリス“お願い抱きしめて(銃口が付きつけられたのにハッとして)”ネフ“グッバイ、ベイビ−”2発の拳銃弾。殺してしまってから自分はフィリスを実は愛していたことに気付き、保険金殺人を疑われている娘ロ−ラの恋人のニノに電話を掛ける5セントを与えて現場から帰らせるネフ。そして「深夜の告白」を録音し終えて力尽きたネフに、末期のタバコにマッチを爪で発火させて火を点けてやるキ−ズ。これらのシ−ンによって、ワイルダ−とチャンドラ−はこの作品を単なるサスペンスではない人間ドラマに仕上げたのだった。呑気呆亭