11月2日(金)「次郎長三国志・勢揃い清水港」

次郎長三国志・勢揃い清水港」('53・東宝)監督:マキノ雅弘 原作:村上元三 脚本:松浦健郎 構成:小国英雄 出演:小堀明男/加東大介/久慈あさみ/石黒達也
★この篇で次郎長一家の面々が勢揃いする。次郎長は石松と三五郎の口利きで、行き倒れの力士・八尾ヶ岳の一行を助けるために相撲興業を打ち、同時に花会を催す。しかし、ふとしたことから黒駒の勝蔵(石黒達也)との関係が険悪に…。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎投げ節のお仲。清水へ帰って一家を構えた次郎長の元に訪ねて来て、“オヤブン、ご無沙汰しました”次“おっと、そんな所へ手をついちゃいけねえよ、お仲さん。良く来てくれたっけよう”お仲“その節はとんだご迷惑をおかけして、ふふっ…、今日はイカサマのお詫びに”次“おっと、もうそのことは云いっこなしにしよう。さ、上んねえ”引っ越し祝いの宴席に連なったお仲が、三味線を爪弾きながら♪想いかけたをムゲにはせまい、石に立つ矢も、石に立つ矢も有るものを、惚れて見たとて甲斐ないことと、想いながらも、想いながらも、つい惚れぇた…♪
八番手は三保の豚松。引っ越し祝いの席にお得意の漁の獲物を持ち込んで、“こりゃあ次郎長オヤブンさんで、オレッチは三保の漁師で吉蔵、アダ名は豚松ってえ暴れモンでごぜえやす。今日こうお見知りおき下せえやす”次“そうかい、オイ、お前さん漁師さんかい”豚松“へえ”次“そんならそんなバクチ打ちみてえなアイサツしねえでもいい”“いいええ、オラッチ、バクチ打ちになりてえんで…”としつこく食い下がる豚松に、大政“オイ、若えの、ここに居る若え者はみんな、諸国を食いつめた者ばかりだ。ん、ウチの親分は土地のカタギの人は子分にしねえ。分かったな、さあ、帰るんだ”と一旦帰される。次郎長の打った相撲の興行で、追分の三五郎の口から出まかせの賞金勝負で大関に勝った豚松が、賞金をよこせと押し掛ける。事情を了解した次郎長が“豚松さん、オレッチが悪かったっけよ、これは次郎長の落ち度だ。次郎長一家に係わりあいの有る者がやったことぁ、ウソにもせよ次郎長の責任だ。さ、キゲン直してこれ持ってってくれよ、な”と盆にのせた十両を差し出す。豚松“いやあいらねえ、オラア、いらねえんで、いらねえよう”次“ほほう、どうしていらねえんだい”豚松“オメエさん、やっぱりオラアが考えてたような好いオヤブンだ。そんなモンいらねえよ”次“ははは、嬉しいよ、分ってくれてありがとう、さ、オイ、持ってきな”豚松“いやあ、ほんとはオイラ、そんなモンいらねえんだ。それよりオヤブン、お願げえだ、オラにサカズキくんろ、な…”豚松の魂胆を見透かして、ヤクザの親分の顔になり“ふん、なあんだ、オウ、テメエ馬鹿か!”と豚松に盆の十両を投げる。豚松“何すんだ、オラアがなぜバカだ。子分にしてくれってのが何でバカだ”次“うるせえ、オウ、オメエはカタギの漁師だ。海へ出て漁をしてりゃ、一番それがいい、な、オフクロやいいなずけを泣かすんじゃねえ。さ、分ったな、分ったら、オウ、それ持ってけえれ”
豚松はマキノ雅弘の甥っ子の加東大介が、俺も一家に入れてくれと頼み込んで作ってもらった役だったのだが、同じ東宝黒澤明の「七人の侍」に起用されることになって、本社から“ブタマツコロセ”との電報で、次回作「殴り込み甲州路」で急きょ死んでもらうことにしたのだとは、マキノ雅弘がその自伝「映画渡世」が語る所である。呑気呆亭