10月31日(水)「次郎長三国志・次郎長初旅」

次郎長三国志・次郎長初旅」('53・東宝)監督:マキノ雅弘 原作:村上元三 脚本:松浦健郎 出演:小堀明男/森繁久彌/堺左千夫/隅田恵子
★庵原川のけんかのあと始末のため、次郎長はお蝶と夫婦約束の盃をかわして旅に出る。一行は旅の途中で、小料理屋を営む兄弟分の沼津の佐太郎の世話になる。ところが佐太郎の博奕癖で今では店も廃屋同然。酒の振る舞いもままならない。その窮状を佐太郎の女房は、亭主の大事な客人のためならと着物を売ってしのぐのだが…。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎前作第一部で次郎長の元に集まる連中が登場する。それぞれとの出会いの次郎長の台詞が面白い。
一番手は桶屋の鬼吉をやりたいといってマキノ雅弘に原作を持ち込んだ田崎潤イカサマ博奕でスッテンテンになって賭場に殴り込んだ鬼吉を救った次郎長に、子分にしてくれと頼みこむ鬼吉に、次郎長が、“俺も無法者で故郷に居られなくなったモンだが、オメエもたいしたヤロ−だなあ、ええ、その腕じゃ望みどおりにバクチ打ちになるよりしようがあんめえ”といって故郷へ帰るゼニを渡してやる。
二番手は関東の綱五郎(森健二)。ケンカ相手の使者として次郎長の元に来て口上を述べ、“では、三保の松原まで使者をもってご返事ねげえとうごぜえやす”と言うと、次郎長が“ご苦労だったな、けえれ”“え、このままけってもよろしいんでござんしょうか?”“ああ、ええよ”“なるほど、清水の次郎長さんは立派な親分でおいでなさる。あっしもこれまでケンカの使者には二度ほど参ったことがございやすが、そのたんび白刃に囲まれたぁ”と周りを見やって“ところが親分は無事に使者を返しなさる。いやあ、お見上げ申しましたぁ、では今晩白刃の下でお目にかかりますでござんす。ごめんなすって”とすっかり次郎長に心服して出て行き、ケンカの場では返事の使者に立った鬼吉を庇って、遂には次郎長一家に助っ人することになる。
三番手は大政(河津清三郎)。馴染の酒場で想う女を巡って取っ組み合う鬼吉と綱五郎を、居合わせた大政がほうり出す。二人を従えた次郎長が大政が一杯やっている座敷に来て“さっき、この二人を痛めてくれたのはオメエずら”“ウム、そうだよ”“フ−ン”といって膳を蹴飛ばし、“浪人さん、家ん中じゃ他人がめいわくする、表へ出てもらおうか”“はぁ、お前さんが次郎長か”“そうだ次郎長ずら”“ほう、さすが親分だけあって、お前さん確かなモンだ”“ふふふ、なにを!”とドスをスッパ抜く次郎長。大政、オウと手元の槍の石突を突きつけて、“待て、なるほどなあ、清水ゥ行ったら次郎長に会えと小川武一がそう言った”と、武一の添え状を示す。誤解が解けて大政は次郎長一家の客分になり鬼吉たちにケンカの指導をする。サンザンにやっつけられた鬼吉に代わって次郎長が、“そんならオイラも”とスラリとドスを抜いて立ち向かう。数合あって、“まてまて、拙者の負けだ。さすが次郎長さん、無駄な勝負はしねえ、いつも真剣勝負のつもりでいるのは見上げたモンだ”“かははは…、いやあオメエさんが刀を抜きやしたらオレッチの負けかも知れねえ、抜いてくれなくてよかったぜよ、はっははは…”脇でハラハラしながら伺っていたお蝶もほっと胸を撫でおろす。
四番手は法印大五郎(田中春男)。出入の場に居合わせた乞食姿の大五郎、次郎長一家の尻馬に乗って“ケンカだっか、ケンカならワテも好きだっせ”と立ち騒ぐが、未だ一家の者とはされず、クサイクサイと邪魔にされる。以上四人が第一部での登場。この第二部には、増川の清右衛門(石井一雄)と森の石松(森繁久彌)が登場する。呑気呆亭