10月30日(火)「次郎長三国志・次郎長売り出す」

次郎長三国志・次郎長売り出す」('52・東宝)監督:マキノ雅弘 原作:村上元三 脚本:松浦健郎 撮影:山田一夫 音楽:鈴木静一 助監督:岡本喜八郎 出演:小堀明男/若山セツ子/田崎潤/森健二/河津清三郎/田中春男/広沢虎造
村上元三の原作「次郎長三国志」を巨匠・マキノ雅弘が監督したいわゆる“次郎長もの”のを代表する傑作シリ−ズ。'52年〜'54年にかけて全9本が作られた。第8作「海道一の暴れん坊」の原作・脚本だけは進境著しい森繁久彌のために書かれた、実質上マキノ雅弘のオリジナルで、森繁の熱演と相まってシリ−ズの最高作となった。会社側の要請で急きょ製作した第9作はスト−リ−上のつながりがなく、製作日数もわずかで、マキノ雅弘以下が途中でおりてしまい“前篇”のみという尻切れトンボに終わった。次郎長(小堀明男)、お蝶(若山セツ子)、大政(河津清三郎)、小政(水島道太郎)、桶屋の鬼吉(田崎潤)、関東綱五郎(森健二)、法印大五郎(田中春男)、増川仙右衛門(石井一雄、)森の石松森繁久彌、)追分三五郎(小泉博)、投げ節お仲(久慈あさみ)といった次郎長一家の面々に加え、狂言回しとして広沢虎造扮する張子の虎三が得意の浪花節を聞かせる。

◎古くはイエスの元に集まった十二使徒に始まって、中国の宗代の群盗宗江を頭とする百八人の英雄譚「水滸伝」、我が曲亭馬琴の「南総里見八犬伝」、黒澤明の「七人の侍」等々、或る名の元に性格も能力も様々な連中が集まって来るという話の面白さは、我々を引きつけて止まない。この「次郎長三国志」シリ−ズもそうした話の一つとして、連作を通しで見て行くことによって面白さが了解される類の物語である。世間の法を外れたヤクザな連中の蝟集の中心となる次郎長のキャラクタ−は、何ものでも受け入れる空白のキャンバスであったほうが良い。その意味で次郎長に小堀明男という明るく茫洋とした個性を起用したマキノ雅弘のキャスティングは成功しているのである。呑気呆亭