10月20日(土)「魔像」

「魔像」('52・松竹京都)監督:大曾根辰夫 原作:林不忘 脚本:鈴木兵吾 撮影:石本秀雄 出演:坂東妻三郎(二役)/津島恵子/山田五十鈴/柳永二郎/三島雅夫/香川良介/小林重四郎
江戸城の御勤番衆神尾喬之助(阪東妻三郎)は、時の勘定奉行を筆頭に腐敗しきった同僚から、新参者としてまた美貌の妻を持ったゆえに周囲からねたまれ、陰湿ないじめを受けていた。正月の登城日、神尾はついに不正を働く同僚のひとりを斬って逃げる。神尾は江戸の町に逃げ込み、通称喧嘩屋夫婦、茨右近(阪東妻三郎=二役)とお紘(山田五十鈴)の家にかくまわれ、彼らの助けで妻・園絵(津島恵子)とも再会する。喧嘩屋右近の助けを得て、神尾は汚辱にまみれた勤番衆を一人またひとりと斬っていく…。
林不忘の原作「大岡政談」の一作『魔像』の映画化は、1930年代から実に6回も(続篇も含めて)行われている。阪妻のほかには大友柳太朗、市川右太衛門が神尾喬之助の役を演じている。
51歳で急逝した阪妻の晩年の作品となってしまったこの作品だが、そんなことは感じさせない阪妻の元気な二役の演じ分けが見所。二役同時出演の際のオプチカル合成もなかなか見事。敢えて神尾は歌舞伎口調で、一転して右近はべらんめえ調でと、大袈裟なくらいの使い分けをしている。右近の恋女房役の山田五十鈴がまた妙に艶っぽくていい。大岡越前守(柳永二郎)がもうひとつ「いい役」に観えなかったのが残念?
<allcinema>黒美君彦

勘定奉行の周囲に暗躍する魚心堂(三島)が駕籠に乗った右近を喬之助と間違えて匕首で突こうとして逆に右近に脅されるシ−ンで、右近の恋女房役の山田五十鈴の“おい、なんだなんだい、この三角野郎、あたいの大事にシトに変なまねをすると承知しないよ”の台詞が、艶やかな姿と伝法な口調で発せられると、もう嬉しくなってしまう。園絵の津島恵子の美しさ、岡っ引きの壁辰(香川)と音松(小林)の粋な立居と捌きやなにやらかにやら、映画を観るという快楽をたっぷり味あわせてくれる、バンツマの二役も面白い快作である。呑気呆亭