10月19日(金)「虎の尾を踏む男達」

「虎の尾を踏む男達」('45・東宝)監督・脚本:黒澤明 撮影:伊藤武夫音楽:服部正 出演:大河内伝次郎/榎本健一/藤田進/森雅之/志村喬
★ 能の『安宅』を歌舞伎にアレンジした『勧進帳』を基に巨匠・黒澤明監督が豪華配役陣で映画化した傑作。終戦直後に完成しながら検閲の関係で永らく未公開となり、1952年にようやく劇場公開された。兄の将軍源頼朝に追われる身となった義経は、山伏姿に変装して弁慶らと共に唯一の理解者、奥州の藤原秀衡のもとへ向かう。が、途中の安宅(あたか)の関所では関守・富樫左衛門が山伏姿に身をやつした義経一行を待ち構えていたのだった。そのことを麓の村で雇ったおしゃべりな強力(ごうりき)から知らされた一行は、弁慶の計略で義経を強力姿にすることで穏便に関所越えを目指すのだったが…。大河内伝次郎演じる威風堂々の弁慶と軽佻浮薄なエノケン強力の対比の妙。息詰まる関所での問答とその後の晴れやかでいて物哀しいエピローグ。監督黒澤明の緩急自在の演出が堪能できるなんとも中身の濃い中編。<allcinema>

◎黒澤のこの映画での手柄はエノケン狂言回しに使ったことにある。エノケンが出ていなければこの映画も黒澤明のクドサによって凡庸な作になってしまったことだろう。弁慶の大河内伝次郎の台詞回しは相変わらず聴き取りにくく、森も志村も精彩がなくて、唯一藤田進に軽妙な味があってエノケンとの対比の妙があった。初期の黒澤の作品「姿三四郎」等にはギャグへの指向があったが、巨匠になってしまってからは、このエノケンの起用のような軽さがなくなってしまったのが残念である。呑気呆亭