10月18日(木)「東京物語」

東京物語」('53・松竹大船)監督・脚本:小津安二郎 脚本:野田高梧撮影:厚田雄春 出演:笠智衆/東山千栄子/原節子/杉村春子/山村聰/三宅邦子
★日本映画を代表する傑作の1本。巨匠・小津安二郎監督が、戦後変わりつつある家族の関係をテーマに人間の生と死までをも見つめた深淵なドラマ。故郷の尾道から20年ぶりに東京へ出てきた老夫婦。成人した子どもたちの家を訪ねるが、みなそれぞれの生活に精一杯だった。唯一、戦死した次男の未亡人だけが皮肉にも優しい心遣いを示すのだった…。いまでは失われつつある思いやりや慎ましさといった“日本のこころ”とでもいうべきものを原節子が体現している。(妻を喪って)家でひとり侘しくたたずむ笠智衆を捉えたショットは映画史上に残る名ラスト・シーンのひとつ。<allcinema>

小津安二郎の「次男性」とでも呼びたい拘りについては兼がね考えてきたのだが、この映画ではその部分が露骨に出過ぎていて余り気分よく見ていることが出来なかった。小津には離れて暮らす親子をテ−マとした「一人息子」「父ありき」という二本の傑作があるのだが、この二作は共に一人息子と母あるいは父との物語であったために、その 「次男性」が出ることはなかった。長男と長女をカリカチュア的に描くことで、次男の嫁である紀子(この名にも拘りがある!)の優しさと賢さを引き立たせようとする意図がアリアリなので、かえって人物描写が類型的になってしまい、もっと軽味のある悲喜劇を狙ったものが重たい作品になってしまったようだ。笠智衆も精彩がなく、長女(杉村)に過去の酒癖を度々持ち出されて閉口するばかりで、壮年者の気骨というものを少しも示す場面のなかったことは、同じ老境に差しかかっている者として歯がゆい想いであった。60歳で亡くなった小津さんにはまだこの時期に「老い」をテ−マとすることに無理があったのではなかろうか。呑気呆亭