10月17日(水)「狐の呉れた赤ん坊」

「狐の呉れた赤ん坊」('45・大映京都)監督・脚本:丸根賛太郎 原作:谷口善太郎 撮影:石本秀雄 出演:坂東妻三郎/羅門光三郎/阿部九州男/橘公子
★戦後時代劇の幕開けを飾った作品。GHQは日本の時代劇に顕著な“封建道徳”の表現を抑えるように指示、その結果、このような明るい人情喜劇ができあがった。大井川の川越え人足・張子の寅(坂東)は乱暴者だがお人好し、街道筋に狐が出ると聞き、退治してやろうとでかけて行くと、そこには赤ん坊が寝ていた。寅はこの赤ん坊を育てるはめになるが、実はこの捨て子、ある大名の妾の子であった…。子育てと別れのスト−リ−はチャップリンの「キッド」を思わせる。主演の坂妻の戦後第一作、当時、脂ののりきっていた丸根賛太郎の傑作。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎監督の丸根賛太郎山中貞雄が戦地で病没した年の翌年1939年に傑作「春秋一刀流」でデビュ−した。作風が非常に似ていて、恐らく山中の跡を継ぐのは自分であるとの自負が有ったのではなかろうか。この作品でもバンツマの張子の寅の人足仲間の凸凹コンビの使い方が、山中の「丹下左膳余話・百万両の壺」のクズ屋の凸凹コンビと良く似ているのが面白い。物語は乞食王子やチャップリンの「キッド」を下敷きにしたものらしく、成長した赤ん坊がやたら生意気なのが気にくわないが、張子の寅を巡る人間模様の描写がに映画を見る快楽を味あわせてくれて嬉しくなる。バンツマは'43年の「無法松の一生」でチャンバラばかりの役者ではないところを見せたが、この映画でも極めつけの演技で泣かせてくれる。とくに、息子を手放したくないとダダをこねて、質屋の因業オヤジに“寅、もう一度死ね!”と喝を入れられて豁然大悟するシ−ンの見事さといったらなかった。呑気呆亭