10月16日(火)「土俵祭」

「土俵祭」('44・大映京都)監督:丸根賛太郎 脚本:黒澤明 撮影:宮川一夫 出演:片岡千恵蔵/市川春代/羅門光三郎/山口勇
★明治初年、旧時代の遺物として相撲が排斥される風潮の中、竜吉は横綱を夢見て黒雲部屋に入門、富士ノ山の四股名をもらう。相撲は勝ちさえすればいいと言う性格の悪い兄弟子・大綱は、ことあるごとに竜吉に辛く当たるが、稽古熱心な竜吉に親方のお嬢さん・きよは好意を寄せる…。
戦争中、「姿三四郎」で鮮やかなデビュ−を飾った黒澤明が鈴木彦次郎の原作を脚色。これを戦後の「狐の呉れた赤ん坊」('45)等、坂妻主演作本で知られる丸根賛太郎監督が、当時大映のトップスタ−だった片岡千恵蔵と可憐な市川春代の共演で映画化した。脚本家・黒澤明の巧みな語り口が楽しめる相撲版「姿三四郎」とでも言うべきスポ−ツ青春映画。撮影の宮川一夫は、本作品の6年後「羅生門」で黒澤作品を撮影することになる。

黒澤明の脚本の影響によるものか、いつもの丸根賛太郎の軽さの見られない作品である。丸根賛太郎監督はそのデビュ−作「春秋一刀流」で湿気のないユ−モアに溢れた快作を撮って、伊丹万作山中貞雄に勝るとも劣らぬ才を示したのだが、いかんせん片岡千恵蔵を相撲取りにするという無理もあって、快作とはならなかった。見るべきところがあるとすれば、土俵に上がっての幕内の相撲取りたちの土俵入りの儀式が、現代のモノとは違っていることに気が付かされたことぐらいか。それと、富士ノ山が親方の娘のきよにその四股名に恥じぬ関取になれと諭されて、いらいまわしに北斎の様々な富士の版画を折り込んで土俵に上がる所などに面白さがあった。呑気呆亭