10月4日(木)「戸田家の兄妹」

「戸田家の兄妹」('41・松竹大船)監督・脚本:小津安二郎 脚本:池田忠雄 撮影:厚田雄冶 出演:佐分利信/高峰三枝子/藤野秀夫/葛城文子/吉川満子/斎藤達雄/三宅邦子/桑野通子
★父親を失ったブルジョワ一家で、残された妻と未婚の末娘が、結婚している息子や娘たちの家庭につぎつぎ世話になるが、どこでもやっかい者あつかいされ、仕方なく二人は古ぼけた別荘に住むことにする。だが、亡父の一周忌に親類一同が集まった席上で、満州から帰国した末の弟が、兄や姉たちの母と末娘に対する仕打ちを知り、いきどおって激しく罵倒する。そして母と妹を満州に連れてゆくことにする…。後に小津と名コンビを組むことになる厚田雄春(当時は雄冶)が初めて正カメラマンとしてついた作品でもある。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎この映画は恐らくラスト・シ−ンから構想されたに違いない。妹節子(高峰)の膝詰談判でその友人の時子(桑野通子)との結婚を承諾させられた昌二郎(佐分利)が、恐らく以前から憎からぬ想いが有ったに違いない時子との対面を逃れて、鵠沼の海岸に黒い着物の裾を風にはためかせて駈けて行くコミカルな映像によって、これでもかと積み上げられてきたブルジョワ一家の没落の悲劇が一気に反転されるのである。家長の死とともに兄妹の厄介者になった母と未婚の末娘が、厄介先に移る度毎に運んでゆく三つの品物(家長の写真・万年青の鉢・九官鳥)の描写が繰り返しのギャグになっている。脚本家たちの意図が基本的にはブルジョワ家庭を廻る喜劇であったのは、ラスト・シ−ンと共にここにも見て取れる。呑気呆亭