9月21日(金)「上州鴉」

「上州鴉」('51・日活)監督:冬島泰三 原作:三村伸太郎 脚本:新藤兼人 出演:大河内伝次郎/水戸光子
★信州のある宿場、大戸の関所を破って以来、姿をくらましていた、お尋ね者の星越の瀧蔵は、故郷を思って、この宿場の信濃屋に投宿していた。
年貢に困って、娘のお光を山形屋藤蔵に身売りした、百姓の佐兵衛は藤蔵から受け取った五十両を、藤蔵の子分に巻き上げられる。瀧蔵は藤蔵を脅迫し、五十両と娘のお光を取り戻すが、そのために身辺が危うくなる。かつて、恩義をかけた信濃屋の板場の亥之とその女房のお吉の居酒屋に匿われる。
亥之は病身のお吉を保養してやりたい一心で疋五郎の賭場へ出かける。しかし、お吉まで質に置く羽目になり、疋五郎からお吉の引渡しを迫られて、亥之は疋五郎を刺してしまう。
山形屋たちが亥之を召し取りに来た時、瀧蔵は身代わりとなって山形屋たちと渡り合う。しかし、お吉の父親である伍助が瀧蔵の召し取りを悲願とする目明しと知った時、瀧蔵は伍助の手柄にさせたく、その手に引かれて行くのだった。亥之とお吉は涙で瀧蔵を見送った。(Wiki

◎原作の三村と脚本の新藤はグランド・ホテル形式を巧みに時代劇に取り込んで、その本を監督の冬島は重厚なセットを組んで、見事な人情劇に仕上げた。舞台となる旅籠・信濃屋とお吉の飯屋のセットは特に見事で、手斧仕上げの大黒柱が美しい。その宿場に現れては去って行く人間模様が丁寧に描かれ、宿の女中たちの立居も見事で、狂言回しの駕籠掻きのコンビも面白く、イカサマの飴売りやら駆け落ち者を絡ませて、後味の良い映画になっている。特にラストの目明しの伍助とお尋ね者の瀧蔵がお吉の店で酒を酌みながらしみじみと語り合うシーンは、観る者の胸を打つ。呑気呆亭