9月20日(木)「男ありて」

「男ありて」('55・東宝)監督:丸山誠治 脚本:菊島隆三 撮影:玉井正夫 出演:志村喬/夏川静江/岡田茉利子/伊藤隆/三船敏郎/若尾文子
★家族のことを一切かえりみず、仕事ひと筋に生きるプロ野球監督島村。家族に相談もなしにルーキー選手を家に同居させるほどの彼が、ある日一か月の出場停止を命じられ……。
ホームドラマに定評のあった丸山誠治が、新たに仕事と家庭というテーマに踏み込んだ作品。撮影は、成瀬巳喜男とのコンビで知られる玉井正夫。志村がお好み焼きを焼くシーンと、ラストの妻の墓に語りかけるシーンは、まさにこれぞ映画。

◎この映画は黒澤明の「生きる」を陰画とすれば、それを反転した陽画の「生きる」であろうか。その「生きる」で主演した志村喬が演ずる監督島村を、数々の映画で志村に助けてもらった三船敏郎が主将の矢野として気持ちの良い演技でサポ−トする。男っぽい名優二人が向かい合ってお好み焼きを焼くシーンが可笑しい。それにしてもプレイング・マネージャーでもない監督が最終戦でマスクを被って活躍するのには仰天した。その島村を支える糟糠の妻という形容がぴったりの夏川静江が好ましく、娘役の岡田茉利子も良くて、実に気持ちの良い作品であった。呑気呆亭