8月25日「晩春」

「晩春」('49・松竹大船)監督・脚本:小津安二郎 脚本:野田高梧 撮影:厚田雄春 出演:原節子/笠智衆/月丘夢路/杉村春子/三宅邦子
★北鎌倉に娘と二人住む大学教授の笠は、婚期を逸しかけている娘を結婚させようとする。娘は父を独りににはしたくないと、結婚には乗り気ではないが、父は淋しさをこらえて娘を嫁がせるのだが…。

◎娘の紀子を演ずる原節子の時に般若の形相に変ずる異様さに、余り再見したい映画ではなかったのだが、今回やむなく再見して紀子の過去に結核の影が有ることに気付いた。このさりげなく触れられた過去があってこその紀子の葛藤なのだと思いいたって、我が身の不明と小津と野田という作家の恐ろしさに改めて気付いたのだった。紀子もまた内心の「静かなる決闘」を戦っていたのだ。その葛藤と向き合って対峙し続けた笠智衆が、娘を見送って帰宅した居間で林檎の皮を剝きながら、号泣して下さいとの演出者小津の意図に逆らって、俯いて目をしばたたかせるだけの静的な演技に止めたのは、原節子という異能の演技者に対する笠の不器用なオマ−ジュであったのではないかと考えた。呑気呆亭